鶏が恐竜時代の羽毛を再現する

研究チームが注目したのは、ニワトリの胚に“羽毛の芽”が出現する発生9日目(E9)という、まさに分枝が始まる前夜のような時期です。
卵の殻に小さな窓を開け、胚の血管をのぞき込んで、Shhシグナルを阻害する薬(sonidegib)を直接注射するという独特かつ難易度の高い手法を用いたといいます。
たとえるなら、豆腐の角に極細ストローを当ててそこから一滴のインクを滴下するような精密さが要求される作業です。
通常なら、この段階の芽は日を追うごとに枝分かれを増やし、フサフサの羽毛へと発達します。
しかしShhを抑えられた胚では、枝分かれのスイッチがうまく入らず、成長が“棒状”の段階で止まってしまったのです。
研究者たちは光シート顕微鏡(組織を立体的に可視化できる装置)や、遺伝子発現を可視化するin situハイブリダイゼーションなどを使って、10~14日目にかけて羽毛の様子を追跡しました。
その結果、通常ならパッチ状に分布する羽毛芽のShh発現が、一時的に“しま模様”になっていたり、最終的にはしっかりと伸びるはずの羽毛がまるで「細い棒」のような形のまま残っている個体が確認されたのです。
なかには、背中にごっそり羽が生えていない“ハゲ地帯”を抱えたまま孵化する個体もあり、まるで「鶏が一時的に恐竜の衣装をまとった」かのようにも見えます。
それでも時間が経つと、多くの場合は遅れていた枝分かれが再起動し、孵化後しばらくするとフサフサの羽毛が生え揃いました。
ただし、翼の後ろにあるような大きな飛行用の羽だけは十分に回復できないケースも多く、「特定の時期にShhが働かないと取り返しがつかない」という可能性が指摘されています。
今回の研究は何が革新的なのか?
最大のポイントは、生きた鶏の胚に広範囲に薬を投与して「羽毛の初期発生~枝分かれ~仕上げ」にわたる全過程を意図的に操作し、しかも原始的な姿まで戻してしまったという点です。
培養皿で一部の組織をいじる研究は以前からありましたが、胚全体に薬を入れて“恐竜的な毛”を彷彿とさせる段階まで再現するのは極めて珍しく、これこそが一つのブレイクスルーといえます。
さらに、この羽毛は時間の経過によって再び枝分かれを獲得するため、「分枝を抑えても再起動できるほど、羽毛形成の仕組みは柔軟かつ頑強」という興味深い事実も示唆されたのです。