火星の塵が危険なワケとは?
私たちが普段目にする「ほこり」は、掃除機で吸い取れば済むものです。
しかし、火星の塵はそんな生易しいものではありません。
火星の地表には、直径およそ3マイクロメートルという微細な粒子が舞い上がっており、これが「火星ダスト」と呼ばれるものです。
この粒子はあまりにも小さく、人間の肺の粘液では排出できず、呼吸とともに肺の奥深くまで到達します。
実際、アポロ計画の時代にも、月の塵が宇宙服に付着して持ち込まれ、咳や目の痛みなどを引き起こしたことが報告されていました。
火星では、これと同様の事態が起こることが予想されるうえに、さらに事態は深刻です。

火星の塵には、呼吸器疾患や内臓への障害を引き起こす成分が多数含まれています。
代表的なものとして、シリカ(ケイ素化合物)、過塩素酸塩(パークロレート)、ナノ鉄酸化物、そして微量ながらも毒性の高い重金属(ヒ素、クロム、ベリリウム、カドミウム)などが挙げられます。
地球では、こうした物質に長期間さらされる職業労働者が「黒い肺病」や「珪肺症」といった病気にかかることが知られていま
このような知見から、火星ダストの吸入によって宇宙飛行士が健康被害を受ける可能性は極めて高いと考えられるのです。
さらに問題なのは、火星に滞在する宇宙飛行士たちは地球のように医療機関へすぐアクセスできないことです。
往復にかかる時間は最短でも1年、緊急搬送は現実的ではありません。
このような状況だからこそ、火星のダストがもたらすリスクを事前に理解し、備える必要があるのです。