赤色巨星より先に終わる運命:惑星の早すぎる消滅

惑星は恒星の周囲をぐるぐると回り続け、やがて恒星が年老いて赤色巨星化する頃にのみ呑まれる──そんな筋書きは古くから理論でも語られてきました。
たとえば将来の太陽が大きく膨張して水星や金星、下手をすると地球すら呑み込むという予測も、多くの人が一度は耳にしたことがあるでしょう。
ところが最近、様子が違うかもしれない事例が見つかってきています。
恒星がまだ若いうちに、惑星のほうが先に軌道を崩してしまう「早すぎる消滅」が実際に起きている可能性があるのです。
こうした「惑星の自殺」とも呼ばれかねない現象は、これまでも断片的に示唆されてきました。
たとえばホット・ジュピターと呼ばれる恒星のすぐ近くを回る巨大ガス惑星が、少しずつ恒星に引き寄せられているかもしれないと指摘されています。
実際に、わずかに公転周期が縮まっているらしき惑星がいくつか報告され、何らかの終末へ向かう予感がありました。
とはいえ、「恒星に呑み込まれる瞬間」の明確な証拠は、これまでほとんど得られていませんでした。
一方、天文学の世界には「赤色新星(レッドノヴァ)」と呼ばれる、恒星同士の衝突や合体で生じると考えられてきた爆発的な現象があります。
その中でも特に光度が低い「サブリュミナス・レッドノヴァ」には、正体がはっきりしなかったものがいくつも含まれていました。
近年、新しい望遠鏡がそうした未知の爆発を捉え始めると、その中に「惑星質量の天体が恒星に落ちたに違いない」と解釈しないと説明が難しいケースが存在することがわかってきたのです。
そしてその最たる例が「ZTF SLRN-2020」と呼ばれる天体でした。
わずか数カ月から百日ほどで急速に明るくなり、その後数年もたたぬうちに大部分が赤外線領域へと移行する不可解な光の変化は、「落ち込んだのが巨大惑星の質量の物体である」という説を強く後押ししました。
そうなると当然、研究者たちは「本当に惑星が自ら飛び込むかのようなシナリオが起きたのか」を確かめたくなります。
もしまだ進化途中の恒星に惑星が落ち込むのが事実なら、私たちが描く太陽系外惑星の進化像そのものを修正する必要が出てくるかもしれないからです。
そこで今回研究者たちは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使ってZTF SLRN-2020から放たれる赤外線のスペクトルを詳しく測定し、惑星の痕跡が本当に残っているのかを徹底検証しました。