惑星の早すぎる自殺が起こるメカニズム

惑星がまだ若い恒星に呑み込まれる――この思いもよらないシナリオが起きる背景には、「潮汐相互作用」と呼ばれる力が大きく影響していると考えられます。
巨大ガス惑星が恒星のすぐそばを回っていると、恒星の重力が惑星を歪め、それによって軌道エネルギーや角運動量が奪われていきます。
結果として惑星は公転速度を落とし、最終的には恒星の重力井戸に落ち込む形で最期を迎えてしまうのです。
従来から「ホット・ジュピター」と呼ばれる天体が少しずつ内側へ落ちている可能性は議論されてきましたが、それが実際に恒星へ吸い込まれる段階までをはっきりと捉えた観測はほぼありませんでした。
ZTF SLRN-2020の場合、中心の恒星がまだ若い段階にありながら惑星が落ち込んだらしいという点で、特に大きな注目を集めています。
恒星が老化して大きくなる以前に惑星が破局へ向かう事例が本当にあるのか、という問いに対して、非常に説得力のある一例となったわけです。
さらに今回の赤外線分光で見えてきたCOやPH3の痕跡が本物なら、呑み込まれた惑星の組成を直接知る手がかりにもなります。
岩石惑星や別タイプのガス惑星でも、落ち込む際に特有の分子が放出される可能性があり、こうした研究は「恒星と惑星の合体」現象を新しいアプローチで探れる点でも重要です。
実際、近年の研究では「特定の元素が過剰に含まれる恒星」は過去に惑星を飲み込んだのではないかと推測される事例も増えています。
もしこうした飲み込みが案外頻繁に起きているのだとすれば、太陽系外惑星の運命は私たちが考えるよりもずっと多様かもしれません。
ただし謎はまだまだ残っています。
今回のような急激な飲み込みが大きなガス惑星だけに限るのか、あるいは地球サイズの惑星でも起こりうるのか、はたまた恒星の寿命自体に影響を与えるのか──どれも今後検証が必要です。
ルビン天文台(旧LSST)など大型サーベイが始動すれば、類似の現象を起こしている天体をもっと探し出し、JWSTを含めた強力な望遠鏡でさらに詳細なスペクトルをとることで、惑星の“自殺”の実態をより明らかにできるでしょう。
最終的には、「惑星が恒星に呑まれるルートは一種類ではなく、しかも意外に多い可能性がある」という宇宙像が浮かび上がってきます。
赤色巨星への進化で起きる飲み込みもあれば、今回のようにまだ若い恒星でも落下が起こるケースもあるかもしれません。
私たちが夜空を見上げるとき、遠いどこかの星系ではすでにまた新しい惑星が自ら終焉へと近づいている──そんな想像をかきたてる発見だと言えるのです。