生涯未婚に比べて認知症リスクが約40%増という衝撃の結果

この研究では、米国の全米アルツハイマー病調整センター(National Alzheimer’s Coordinating Center, NACC)のデータベースを用いました。
NACCは全米の医療機関から集まった高齢者5万人以上を毎年追跡し、認知症の有無を評価している大規模な研究データです。
研究チームはその中から平均年齢71.8歳の高齢者24,107人を抽出し、ベースライン時点での婚姻状況によって「現在結婚している(既婚)」「配偶者と死別している(死別)」「離婚している(離別)」「一度も結婚したことがない(生涯未婚)」の4つのグループに分類しました。
そして、認知症ではない状態からスタートしたこれらの人々が、その後最大18年間の追跡期間中にどの程度認知症と診断されたかを比較しました。
今回の解析で特に目を引いたのは、生涯未婚の参加者でした。
まず、年齢と性別だけを補正した「粗解析」によると、生涯未婚者の認知症発症リスクのハザード比は0.60と推定されました。
これは同じ年齢・性別条件のもとで比較すると、「既婚者のほうが未婚者より最大で約67%も高い認知症リスクを持つ」という関係が観察されたということです。
さらに、教育歴や遺伝的背景、生活習慣など、多くの要因を同時に考慮する「多変量モデル」に切り替えても、やはり生涯未婚者のリスクは既婚者よりも24%ほどリスクが低い状態が有意に認められました。
具体的には、調整後のハザード比は0.76となり、粗解析ほどの差ではないものの、それでも「既婚者よりも24%ほどリスクが低い」状態が有意に認められました。
(※やや計算がややこしいですがハザード比を基に計算すると既婚者の認知症リスクは+32%、未婚者-24%と表せるイメージです)
また離婚経験者は既婚者に比べて認知症リスクが約34%低く、配偶者と死別した人も既婚者に比べて約27%低い値でした。
ただし、配偶者と死別した人については他の要因を調整すると差が小さくなり、統計的に有意な違いは見られなくなりました。
なお、この傾向は認知症のタイプによってもほぼ共通しており、アルツハイマー病やレビー小体型認知症でも未婚・離別・死別の各グループのリスクは既婚グループより低く報告されました。
ただし、血管性認知症では婚姻状況による差が見られず、さらに結婚していないグループの方が軽度認知障害(MCI)から認知症へ進行しにくいという結果も得られています。
以上の結果から、少なくともこの大規模データでは「結婚している高齢者の方が、結婚していない高齢者よりも認知症になりやすい」という、従来の予想とは逆の関連性が示されたのです。