頭が真っ白になる瞬間に脳に何が起きているかが判明!起きているのに眠る脳
頭が真っ白になる瞬間に脳に何が起きているかが判明!起きているのに眠る脳 / Credit:Canva
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頭が真っ白になる瞬間に脳に何が起きているかが判明!起きているのに眠る脳 (2/3)

2025.05.05 22:00:22 Monday

前ページ頭真っ白な状態は「ボーっとしている」とは違う

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「脳内真っ白」の正体は脳内金縛りだった

「脳内真っ白」の正体は脳内金縛りだった
「脳内真っ白」の正体は脳内金縛りだった / Credit:Canva

私たちの頭が実際にどれほど頻繁に真っ白になるのか、まず最初に判明したのは、その回数の多さでした。

平均すると、人々は起きている時間の約5~20%をマインド・ブランク状態で過ごしていることがわかりました。

言い換えれば、私たちが1時間起きているあいだに、数分ほどは何も考えていない可能性があるのです。

(これは典型的なマインド・ワンダリングの頻度のおよそ3分の1ですが、それでも私たちの心の活動においてはかなりの割合を占めます。)

興味深いことに、マインド・ブランキングの頻度は個人によって大きく異なり、めったに起こらない人もいれば、ずっと多く体験する人もいます。

たとえば注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子どもや成人は、神経学的に定型発達の人々よりもはるかに頻繁にマインド・ブランクを報告する傾向があります。

一方で、まったく頭が真っ白にならないと主張する人も少数ながら存在します。

「マインド・ブランキング」とは何を指すかも人によって違いがあり、それが注意の途切れなのか、記憶が抜け落ちた瞬間なのか、あるいは頭の中の内なる声が突然止まることなのか、さまざまな解釈があります。

しかしいずれの説明であっても、中心的な特徴は同じで、それは「思考内容が何もない」という主観的な感覚です。

では頭が真っ白になるのはいつ起こりやすいのでしょうか?

研究によると、の覚醒度が限界近くに追い込まれるような状況で起こりやすいことがわかっています。

マインド・ブランクは、たとえば長く退屈な作業の終盤(長い試験の最後の数問など)や、睡眠不足や激しい運動のあとなど、疲労を感じるタイミングによく起きます。

つまり、脳のエネルギーが不足していたり、極度に疲労していると、頭が真っ白になる状態に陥りやすいのです。

(実際、「頭が真っ白になる(mind going blank)」は不安障害のDSM-5での症状例の一つとしても言及されており、脳卒中、てんかん、外傷性脳損傷、あるいはまれなクライン・レビン症候群などでもしばしば見られる症状です。)

とはいえ、マインド・ブランキングは過負荷や病気だけに起こるわけではなく、まったく正常な覚醒状態でも表れることがあります。

何の作業もしていない休息時でも、人はときどき突然「何も考えていなかった」と報告することがあるのです。

新たなレビューによれば、マインド・ブランクは疲れている時や退屈している時だけでなく、どんなタイミングでも一様に生じうることがわかりました。

要するに、短い間意識が空白になるというのは、多くの人にとってさまざまな状況で起こりうるごく日常的な現象なのです。

それでは、頭が真っ白になったとき、脳内ではいったい何が起きているのでしょうか。

この疑問に迫るため、研究者たちはfMRIによる脳スキャンやEEG(脳波計測)を使い、ボランティアの脳がブランク状態に入ったり抜け出したりする様子を観察しました。

その結果、マインド・ブランキングに先立ち、かつ同時に起こる特有の神経的特徴が見つかりました。

ブランクが起こる直前には、脳全体のいくつかの領域が活動を弱めたり同期を失ったりし始めます。

特に、前頭部、側頭部、そして視覚を司る部分などで変化が観察され、頭が真っ白になる直前の段階で通常の脳内コミュニケーション回路が徐々に停止に向かい、意識が薄れていく下地ができるようなイメージです。

実際にマインド・ブランクが起きている間、脳と身体の活動には全般的に下降シフトが見られます。

心拍数は下がり、血圧はわずかに低下し、瞳孔が縮んで注意力の低下がうかがわれます。

同時に、脳の電気活動には劇的な変化が生じます。

EEG記録によると、通常は複雑で活発なパターンを示す脳の波形が、より遅く同調した波へと単純化していきますが、これは深い睡眠や麻酔下の状態で見られるパターンとよく似ています。

こうした瞬間、脳は仕事中に眠り始めているようにも見えるほどです。

実際、研究者たちはマインド・ブランキングには「局所的な睡眠」エピソードが生じている可能性があると説明しており、人が起きたままでも脳の一部だけが眠りに入っているように見えると指摘しています。

感覚回路も静まり返るため、外界の映像や音は、このブランクの間ほとんど認識されなくなります。

つまり、マインド・ブランクは覚醒状態のまま、一時的に脳が“オフライン”のような睡眠に近いモードへ移行してしまう結果ともいえるでしょう。

この状態は、いわば「脳内金縛り」です。

体は起きているのに、注意や記憶をつかさどる神経ネットワークが一瞬だけ硬直し、入力も出力も動けなくなるイメージです。

金縛りで体が動かせないように、局所睡眠に入った領域は情報をまったく処理できず、視覚や聴覚の扉を閉ざします。

そのため外の世界は通り過ぎるだけで、私たちは「何も考えていなかった」としか報告できなくなるのです。

興味深いことに、頭が真っ白になるのは疲れが原因だけではなく、逆の極端なケース、つまり脳が過剰に刺激されたときにも起こり得ます。

著者によれば、後部(後ろ側)の脳領域で急激な神経活動の高まりが起こった場合、たとえば急速に大量の情報を処理する「高速思考」の最中に、逆説的に思考が止まってしまうことがあるのです。

この場合、思考のオーバーロードが一種のサーキットブレーカーを作動させ、一時的に意識の流れをシャットダウンしてしまいます。

ならば意図的に「頭を空っぽにしよう」と試みたらどうなるのでしょうか。

研究チームは、この点についても調べましたが、参加者に意図的に「何も考えないでください」と指示すると、脳スキャンの結果、主要な認知領域が広範囲にわたって活動を低下させることがわかりました。

たとえば言語を司る領域(前頭葉のブローカ野)、記憶をつかさどる領域(側頭葉の奥にある海馬)、そして自己を省みる働きを持つ領域(前頭皮質の一部)が、同時に沈黙に近い状態になるのです。

このように皮質の大部分を協調して沈黙させる――言い換えれば、脳全体の活動を大きく低下させる――ことこそが、頭を本当に空っぽに近づけるために重要な要素だと考えられます。

これは、意図的に頭をクリアにする行為であっても、脳の通常機能の大半を積極的に停止させる必要がある可能性を示唆しているのです。

こうしたさまざまな経路を結びつけ、頭が真っ白になるという共通点をもたらしているのは何なのでしょうか。

研究者たちは、その答えとして脳の覚醒レベルの揺らぎに注目しています。

覚醒度が低下しすぎ(たとえば眠気や精神的疲労など)たり、高まりすぎ(刺激や認知負荷が過剰な状態)たりすると、意識の流れを保つネットワークの微妙なバランスが崩れてしまうのです。

そうした瞬間に、記憶や注意、内なる声などの主要な認知機能が「うまく働かなくなる」可能性があり、その結果、主観的に「何も考えていない」という感覚をもたらすと考えられています。

要するに、マインド・ブランキングとは、脳の明かりが暗くなりすぎたり、逆に強すぎたりしたときに起こる現象であり、そのどちらの極端も通常の思考の流れを途切れさせてしまうのです。

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