頭真っ白な状態は「ボーっとしている」とは違う

マインド・ブランキングとは、頭の中にまったく何も浮かんでこない、いわば“意識が空っぽになる”状態を指します。
もし「考えようとしても何も思いつかない」「会話中に突然何を言おうとしていたのかさえ忘れてしまった」という経験があるなら、それがまさにマインド・ブランキングかもしれません。
じつは多くの人が、こんな不可思議な瞬間を味わったことがあるはずなのです。
以前は、この頭の空白状態が、いわゆるマインド・ワンダリング(あちこちに思考が飛び回る状態)の一部と捉えられてきました。
ところが実際には、“頭が空っぽ”な感覚と“いろいろなことをぼんやり考えている”状態とでは大きく異なるらしいのです。
白昼夢(デイドリーム)ではたしかに頭の中をイメージや内なる声が漂っていますが、マインド・ブランキングではそれすらなく、報告できる思考の内容がまったくないという点が特徴的。
しかもこのとき、人は眠気を強く感じたり、動作が鈍くなったり、ミスが増えたりしがちです。
まさに「ただのぼーっとした状態」とは何かが違うようなのです。
ある意味で体は起きているのに意識だけが沈黙してしまった「脳内金縛り」のような状態です。
実際、この現象は「うとうとして意識が薄れる」から「ほぼ完全に意識が消失している」まで、定義づけが幅広いことからも、いかに不思議で多面的な状態なのかがわかります。
そこで神経科学者や哲学者たちの国際チームは、こうした頭の空白が起きる瞬間にはどんなことが脳内で進行しているのか、徹底的に解明しようと取り組んできました。
「私たちは、マインド・ブランキングを理解するために80本ほどの関連研究を再検討しましたが、そこには自分たちで行った実験も含まれています。たとえば、参加者が『何も考えていない』と自覚したタイミングで、脳活動を記録してみたのです」とリエージュ大学のアテナ・デメルツィ氏は語ります。
研究者たちはこうして、過去数十年分の成果を洗い直すとともに、新たな脳のデータを加えることで、頭の中の“真っ白”状態がどのような特徴を持つのかを探り出そうとしたのです。
気になるのは、マインド・ブランキングが本当に独立した意識状態と言えるのか、いったいどんなきっかけで起こるのか、そしてそのとき脳が何をしている(あるいは何をしていない)のか。
こうした疑問を解き明かす過程で、私たちが「常に何かを考えているはず」と思い込んでいた日常観が、大きく揺らいでくるかもしれません。
それほどまでに、頭が真っ白になるこの瞬間は不可思議で、人間の意識の仕組みに迫る大きな手がかりになり得るのです。