睡眠中の脳は未来の記憶を仕込んでいた:最新研究で判明
睡眠中の脳は未来の記憶を仕込んでいた:最新研究で判明 / Credit:Canva
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睡眠中の脳は未来の記憶を仕込んでいた:最新研究で判明

2025.05.07 22:00:00 Wednesday

私たちは日々たくさんの出来事を経験し、それが記憶として脳に蓄えられていきます。

睡眠はその記憶を定着させる大事な時間です。

しかし富山大学で行われたマウス研究によって、眠っている脳内では、過去の記憶を整理・強化しつつ、これから起こる出来事に備えて新しい記憶の「受け皿」を用意するという二つのプロセスが同時に進んでいることが明らかになりました。

言い換えれば、睡眠は「過去の整理」だけでなく「未来の記憶への投資」でもあったのです。

研究内容の詳細は2025年4月28日に『Nature Communications』にて発表されました。

脳が未来の記憶に備える重要なプロセスを発見— 睡眠は単なる休息ではない — https://www.u-toyama.ac.jp/news-press/112211/
Parallel processing of past and future memories through reactivation and synaptic plasticity mechanisms during sleep https://doi.org/10.1038/s41467-025-58860-w

記憶は経験前に準備される?未解明だった謎に挑む

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マウスの脳内で過去・現在・未来の記憶がどのように処理されるかを示した概念図です。左の枠「過去」では、赤い円で示されたエングラム細胞集団(記憶を担う神経細胞の集まり)が経験Aの記憶を符号化しています。中央「現在」(睡眠中)では、過去の経験Aの記憶を担う赤いエングラム細胞が再び活動して記憶の定着が行われると同時に、緑色の「エングラム予備細胞集団」が出現しています。右の枠「未来」では、この睡眠中に準備された緑の予備細胞集団が、次の日の新たな経験Bの記憶を担う様子を示しています。つまり睡眠中の脳では、過去の記憶を整理すると同時に未来の記憶の下準備も進められているのです。/Credit:脳が未来の記憶に備える重要なプロセスを発見— 睡眠は単なる休息ではない —

これまでの研究から、睡眠が前日の記憶を定着(強化)させるために必要不可欠であることが知られていました。

例えば、昼間に学んだことは一晩眠ることでより思い出しやすくなる──これはが睡眠中にその記憶を再現して「おさらい」し、しっかり定着させているためだと考えられています。

実際、ある出来事の記憶は、それを担う特定の神経細胞の集団(エングラム細胞集団と呼ばれます)が経験後の睡眠中に再び活動(再現)することで脳内に固定されることがわかっています。

エングラム細胞とは、その出来事の最中に活性化し記憶の内容を符号化した神経細胞で、後でそれらが再び活動するとその記憶が想起される、いわば記憶の担い手です。

しかし、一つ疑問が残っていました。エングラム細胞は果たして出来事を経験したその瞬間に初めて選ばれてできるのでしょうか?

それとも実は、経験する前から将来の記憶の担い手となる細胞があらかじめ脳内に用意されているのでしょうか?

もし“予備”の記憶細胞が事前に存在するのだとしたら、それはどのように準備されるのでしょうか?

また、睡眠中の脳は過去の記憶を整理するだけでなく、未来の記憶を担う細胞を選抜・準備する役割も果たしているのか?

それも大きな謎でした。

この未知の問題に挑んだのが、富山大学の井ノ口馨(いのくち かおる)卓越教授(神経科学)とカレド・ガンドウル特命助教らを中心とする研究チームです。

彼らはマウスを使った巧みな実験によって、睡眠中に脳内で「過去の記憶の保存」と「未来の記憶の下準備」が並行して行われていることを世界で初めて実証しました。

次ページ脳は寝ている間に昨日の記憶を整理し、明日の記憶を密かに仕込んでいる

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