前向きな言葉がつらく感じてしまう人

長年、ポジティブな自己暗示(Positive Self-Statements)は自信や幸福感を高めると考えられてきました。
しかし、カナダのウォータールー大学の社会心理学者ジョアン・ウッド博士らは「これが本当に誰にでも効果があるのか?」という疑問を抱きました。
これは心理学で「自己検証理論(self-verification theory)」と呼ばれる考え方に則った疑問です。
人はたとえ否定的な言葉であっても、自分の現在の自己イメージに合う情報の方が受け入れやすい傾向があります。
自己肯定感が低い人は、自分を価値の低い存在だと感じていることが多いため、過度に褒められるよりも、自分の認識と一致する控えめな評価や、時に否定的な意見の方が「自分を正しく理解してくれている」と感じ、違和感が少なくなるのです。
そのため「クズ」「ダメな大人だね」などと言われて逆に喜ぶ人たちがいます。
こうした考えに従うと、自己肯定感の低い人は「自分は必要とされている」などのポジティブな言葉を自身に言い聞かせると、自分の欠点を意識してしまい逆に気分が悪くなるのではないかと考えたのです。
研究チームはまず、カナダの大学生約250人に対し、「自分を励ます言葉をどのくらい使うか」を調査しました。すると約半数が「頻繁に使っている」と答え、試験やプレゼン前など緊張する場面でよく活用していることがわかりました。
そこでチームは、68人の学生を自己肯定感が高い群(high self-esteem group)と自己肯定感が低い群(low self-esteem group)に分け、こうした言葉の効果について2つの実験で検証を行いました。
まずは「私はみんなから愛されている(I am a lovable person)」というフレーズを何度も繰り返してもらい、このときの気分や自己評価を測定する質問票に答えてもらいました。
次に、「フレーズが本当に自分に当てはまるかどうか」を考えてもらう条件と、「フレーズが当てはまらない場合もある」と柔軟に考えてもらう条件で、参加者の自己評価の変化を比較しました。
すると自己肯定感の低いグループは、みなポジティブな言葉で気分が悪化したのです。