「ナイロンの釣り糸」が海で生分解することを発見:実は急速に溶けていた
「ナイロンの釣り糸」が海で生分解することを発見:実は急速に溶けていた / Credit:Canva
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「ナイロンの釣り糸」が海で生分解することを発見:実は急速に溶けていた (2/3)

2025.05.16 17:00:32 Friday

前ページ消える釣り糸の衝撃! 教科書を書き換える海洋分解ナイロン

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分解しないと思われていたナイロン釣り糸が生分解されていた

分解しないと思われていたナイロン釣り糸が生分解されていた
分解しないと思われていたナイロン釣り糸が生分解されていた / サンライン社製 Queen Star 1 号(黄色)やサンヨーナイロン社製 Extra V-500 1 号(ピンク)は生分解性ポ リマーの標準物質であるセルロース(黒)と同程度の生分解性を示している。東レ社製 Ginrin(水色)も若干 の生分解性を示すが、他のナイロン製釣り糸はほとんど生分解性を示さない。/Credit:これまで分解しないとされていた市販の釣り糸が海洋で生分解することを発見

研究チームはまず、「ナイロン製の釣り糸が本当に海水中で分解するのか」を確かめるために、実際の海を利用したフィールド試験を行いました。

これは、実験室の水槽ではなく、海底や海の表層などに釣り糸を一定期間沈め、数週間から数か月おきに回収して状態を調べるという手法です。

海の中には多種多様な微生物海洋生物が存在し、水温や潮流など自然環境もさまざまなので、実験室よりもよりリアルな分解の様子を観察できます。

回収した釣り糸を詳しく調べると、驚くことにいくつかの市販ナイロン糸だけが目に見えて表面に凹凸が生じていることがわかりました。

さらに、結び目の強度を測定してみると、実験開始時にはほとんど劣化が見られなかった糸が、数か月のあいだに大幅に弱くなっていたのです。

これは「何か(微生物など)が糸そのものを分解している」サインだと考えられます。

とはいえ、見た目が変化しているだけでは“生分解”と断定できません。

そこで行ったのが、BOD(Biochemical Oxygen Demand:生物化学的酸素要求量)試験です。

この試験では、微生物が分解に使う酸素の量を測ることで、素材がどの程度“食べられている”かをチェックします。

結果は予想を上回るものでした。

特定の配合(ナイロン6とナイロン6,6の比率)をもつ釣り糸は、代表的な生分解性素材であるセルロース(紙などの主成分)と同等レベルのBOD増加が確認されたのです。

セルロースは温暖な海域など条件が良ければ1年もあれば1kgの大部分が分解されるという研究例があるほど、よく分解される素材として知られています。

ただし海域や水温、微生物の量などに左右されるため、どこでも同じ速度というわけではありません。

そのセルロースと同等の生分解性を示す釣り糸があるという事実は、これまで「海洋では分解しない」とされてきたナイロンの常識を大きく揺るがすものでした。

研究者たちによると、当初は半信半疑だったそうですが、複数の試験データが同様の傾向を示したために確信へと変わったといいます。

こうして明らかになったのは、特定の市販ナイロン糸が、実際の海の中でも想像以上に早いスピードで分解されているという衝撃的な事実です。

これはゴーストギアとして長年海に残ると思われていた釣り糸が、条件次第では自然界に還る可能性を示すものであり、漁業プラスチック問題を解決する糸口になるかもしれません。

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