より多くの人を救うための選別「戦場トリアージ」に新たな波
トリアージとは、フランス語の「選別する(triage)」に由来し、戦場での医療が起源とされています。
ナポレオン戦争の時代、前線で多数の負傷者が発生する中、限られた医療リソースを最適に分配するために導入されたのがトリアージの概念です。
現代でも災害医療、救急現場、さらにはパンデミック対応においてトリアージは重要な役割を果たしています。

一般的には、赤、黄、緑、黒という色分けにより傷病者の優先順位を判断します。
赤は、迅速な治療が必要で、適切に対処すれば救命が可能な重症者を意味します。
黄は、中等度の負傷者で、一時的に治療を待てるとされる状態です。
緑は、歩行可能で生命の危険がない軽傷者と判断されます。
黒は、救命の見込みが極めて低く、医療資源を投入すべきか再考される状態の傷病者です。

この分類は非常に有効である一方で、いくつかの課題も存在しています。
判断には医師の経験や精神的状態が大きく影響し、主観的なぶれが生じる可能性があります。
また、外見上は軽傷に見えても内出血や脳損傷といった重大な状態を見逃すリスクもあります。
さらに、煙、暗闇、騒音など、判断環境が劣悪であることが多く、精度の高い判断を困難にしています。
こうした人間の限界を補うため、DARPAが注目したのがAIと無人機の技術です。

DARPA Triage Challenge(DTC)は、「機械による正確な観察」「AIによる即時分類」「リモート環境下での支援判断」を軸に、トリアージの自動化を目指す大規模プロジェクトとして立ち上がりました。
2023年から開始されたDTCは、今後数年にわたり複数回に分けて開催され、米国防総省や医学関係者も評価に参加しています。
この挑戦は、単なる研究開発ではありません。
極限の戦場で、1人でも多くの命を助けるという極めて現実的で人道的な目標に直結しています。
AIと無人機が、医師の「目」や「判断力」の役割を果たせるのか、その仕組みを具体的に見ていきましょう。