チョウの化石は珍しい!37年前に見つかった化石の正体は?

チョウのように軽やかで繊細な生き物は、化石になりにくいことで知られています。
その理由は明快です。
まず、体が非常に軽く、翅には鱗粉(りんぷん)という微細な粉があるため、水に沈みづらく、腐敗もしやすいのです。
たとえ運良く水に沈んだとしても、魚などに食べられたり、バクテリアによって分解されたりして、原形をとどめることは稀です。
実際、世界中で知られている蝶の化石は80例ほどしかなく、成虫の化石は65個しかありません。
また、それらのうち名前が付いているのは43種にすぎません。
21世紀に入ってから新種として記載された成虫のチョウ化石は、これを含めてわずか3例しかありません。
そんな中で、現在ある化石に注目が集まっています。

その化石とは、1988年に地元・兵庫県の高校教師であった神谷喜芳氏によって発見されたもので、「おもしろ昆虫化石館」という地域の博物館に保管されていました。
おそらく当時の技術では詳細な同定ができなかったと考えられますが、正式な記載がないまま、その博物館で37年の時が過ぎていました。
そして2024年、慶應義塾の相場博明氏と高橋唯氏がこの標本の存在に注目し、標本を借り受けて本格的な研究を始めました。
使用されたのは、最新の高解像度顕微鏡です。

特に翅の翅脈(しみゃく)と呼ばれる翅の筋の構造を精密に観察した結果、オニミスジ属の新種として分類するに至りました。
標本は、兵庫県新温泉町の地層から出土したもので、地質学的には鮮新世から更新世(約280万~220万年前)のものであると推定されています。
特に蝶の化石は翅だけの破片が多い中、今回の標本は前翅・後翅・胸部までが揃っており、頭部こそ欠損しているものの、極めて保存状態の良い貴重な標本です。