1つの光子が同時に2カ所にあった:多世界解釈の必然性に疑問符
1つの光子が同時に2カ所にあった:多世界解釈の必然性に疑問符 / Credit:clip studio . 川勝康弘
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1つの光子が同時に2カ所で観測される:多世界解釈の必然性に疑問符 (3/3)

2025.05.27 17:00:11 Tuesday

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多世界解釈は死んだのか?

多世界解釈は死んだのか?
多世界解釈は死んだのか? / Credit:clip studio . 川勝康弘

この研究により、量子の波動関数が示す重ね合わせが単なる計算上の概念ではなく、個々の粒子レベルで物理的現実として存在していることが実証されました。

「二重スリット実験で干渉縞が生じるとき、各子は正確に2つの等しい“ハーフ”に分かれて両方のスリットを通過している」ことを示す証拠が得られたのです。

研究チームは「今回の結果は、将来の測定によって定まる文脈に物理的現実が依存していることを示すものだ」と強調しています。

この成果は、量子力学の解釈論に大きなインパクトを与えています。

中でも、多世界解釈に対する挑戦という点が注目されます。

多世界解釈では、観測による波動関数の収縮を認めず、あらゆる結果を包含する無数の世界が並行して存在すると考えます。

しかし今回、一つの世界の中で光子が二経路に存在したことが確認されたため、わざわざ「別の世界で別の経路を通った光子がいる」と仮定しなくても現象を説明できるのではないか、という議論を呼んでいます。

言い換えれば、「光子は観測まで両方の経路に存在し、観測によって一つの現実に収まる」というこれまでの理解に対し、「光子は最終的な行き先によって過去の存在の仕方が異なる」という新たな視点が提示されたのです。

多世界解釈の支持者からすれば、各結果はそれぞれの世界で起きたにすぎず今回も整合的に説明できるかもしれません。

しかし、少なくとも本研究は「一つの世界内で粒子の現実が文脈によって変わりうる」ことを示し、多世界解釈では当初触れられていなかった時間的な文脈依存の問題を突きつけたと言えます。

では、多世界解釈以外でこの結果をどう理解すればよいのでしょうか。

研究チームは「異なる測定が量子系の過去を形作る様子」をもっと深く理解する必要があると述べています。

このような考え方は、一見すると「未来が過去に影響を与える」ようにも思えます。

実際、一部の物理学者は量子論にレトロカウザリティ(逆因果性)と呼ばれる要素(未来の測定結果が過去の状態に影響するという考え方)を導入することで、この種の不思議な現象を説明しようともしています。

他にも、量子系の性質は測定行為に依存して初めて定まるとする文脈的実在論や測定の文脈依存性(コンテクスチュアリティ)の議論もあります。

今回の実験結果は、こうした「観測によって左右される現実観」を支持する実証的な例と言えるでしょう。

言い換えれば、量子力学の奇妙さの正体が「文脈依存(測定のしかた次第で性質が変わる)」という性質にあることを裏付けているのかもしれません。

今後、この手法を用いれば、量子力学の基本原理に関する他のパラドックス(例えば有名なシュレディンガーの猫や量子ゼノン効果などの思考実験)についても検証が進む可能性があります。

研究チームも現在、今回の方法を発展させ、他の一見逆説的な量子効果を次々に検証する計画とのことです。

最終的な目標は、「なぜ観測によって量子系が変化するのか」を包括的に理解し、量子力学が常識と食い違う理由を解き明かすことにあります。

その過程で得られる知見は、量子コンピュータや量子暗号などにおける量子の優位性の本質を理解する手助けにもなるでしょう。

コンテクスチュアリティ(文脈依存性)は量子が古典にはない計算能力や通信能力を発揮する場面と深く関わっているためです。

1個の光子が二か所に同時に存在しうる――かつては奇想天外に聞こえたこの主張が、いよいよ実験で裏付けられました。

多世界解釈を含む量子論の世界観に今、新たな視点と議論が生まれています。

私たちの現実は一体どのように決まっているのか。

量子の振る舞いを突き詰める研究は、日常の「現実」の概念さえも揺るがす可能性を秘めています。

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1つの光子が同時に2カ所で観測される:多世界解釈の必然性に疑問符 (3/3)のコメント

ゲスト

実は無限分割できるけど、一匹でも捕らえると全部網の中に移動する仕様なのかな
現実離れした現象で該当する例えが浮かばないけど
しいて言うと妖精とか分霊みたく、文字通り日常を離れたものに似てるのかもしれない

ゲスト

いや、これでなんで「多世界解釈の必然性に疑問符」なんて発言が出てくんの????
ナゾロジーのライターさんが多世界解釈イマイチ理解してないだけでしょ、記事のタイトルに書く内容じゃないし元論文読んでないけど、絶対論文にはそんなこと一言も書かれてないよね?

無名

片方が「0」ではなくマイナスの存在になって、もう片方が「1」より大きくなるっていったいどんな観測結果からわかるんだろう?
量子論全般に言えるけど、実際の実験機器や実験風景を見てみたい!

ゲスト

論文では多世界解釈については何も触れてなかった。
ライターが論文を読んだ感想という話。

今回の実験結果は重ね合わせの状態が実在することを示している。
多世界解釈は重ね合わせの状態が実在することを言っており、コペンハーゲン解釈では波動関数は単なる道具であるとして実在しているとは言ってなかったので、むしろコペンハーゲン解釈を再構築しないといけないんじゃないか。

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