鎮痛薬デザインは第2章へ
今回の研究により、以前は「脳の“受け取り手”をガンガン刺激して、痛みよりも快感を優位にする」と考えられていましたが、実際には「場所によっては、むしろ“受け取り手”の過剰な働きが痛みを増幅する」という回路が存在し、それを2-AGが後押ししてしまうケースがあるかもしれないことが示唆されました。
脳内のメカニズムは単純に「快楽物質を増やせばOK」ではなく、必要な部分では抑えることも重要になり得るわけです。
(※実際、本研究が明らかにした回路では、CB1受容体の過剰な活動がむしろ痛みを増幅させており、アセトアミノフェンはそのブレーキ役として働く可能性が高いのです。)
長年「なんだかよくわからないけど効く薬」とされていたアセトアミノフェンに、新たなメカニズムが見つかったことで、将来的に「肝障害などの副作用を抑えつつ、同じ回路をターゲットにできる新しい痛み止め」を開発できるかもしれません。
その一方で、痛みにはいろいろな種類がある(慢性の痛み、炎症による痛み、神経痛など)ので、「どの痛みに効くのか」や「他の薬も同じ仕組みを持っているのか」は、まだまだ詳しく調べる必要があります。
とはいえ、本研究は「脳には複数の回路があり、一見鎮痛物質と思われているものでも逆に痛みを増やすことがある」という重要な事実を突き止めた大きな一歩だといえます。
ストライカー博士は「ターゲットが分かれば薬の設計が進められる」と述べています。
実際、今回の研究から、DAGLα(2-AG合成酵素)が鎮痛の有望な標的であることが示されました。
もしこの酵素だけを選択的に阻害できれば、アセトアミノフェンが抱えてきた肝毒性などの副作用を低減しつつ、痛みを抑える薬の開発も見込まれます。
さらに興味深いのは、このメカニズムがアセトアミノフェン以外の鎮痛薬にも関係する可能性です。
研究チームは今後、イブプロフェンやアスピリンなどの一般的な鎮痛薬にも類似の作用があるかどうかを調べる予定だといいます。
もし意外な共通点が見つかれば、痛み止めの「常識」はさらに書き換わるかもしれません。
もっとも、痛みは種類が多岐にわたり、それぞれ異なるメカニズムが作用していることも事実です。
今回の研究は急性の熱痛に着目しましたが、慢性痛や炎症性の痛みなどでは別の経路が重要となることも考えられます。
それでも本研究が示した発見は、痛み研究のパズルを埋める一つの重要なピースと言えそうです。
ストライカー博士らは「この成果がエンドカンナビノイドをめぐる鎮痛研究を加速させるだろう」と期待を寄せています。
新しい痛み止め開発の目安ができたわけですね。