猫の「ゴロゴロ遺伝子」を発見 (3/3)

遺伝子は“音量ノブ”、飼い主がメロディー

では、なぜ特定の反復が猫たちの行動に大きな変化を起こしたのでしょうか？

1つのシナリオとしては、特定の反復（CAG）が短い AR を持つ猫は声帯の“アクセル”が少し踏み込まれた状態にあり、テストステロン刺激で報酬系が活性化しやすいため「鳴く＝得をする」と学びやすかったのかもしれません。

とはいえ質問紙スコアで ±0.04 ポイント前後の差は“遺伝子がボリュームノブをひねる程度”で、最終的なメロディーを奏でるのは飼い主の接し方や幼少期の社会化です。

研究対象が雑種かつ避妊去勢済みの室内猫に限定され、行動評価もオーナーの主観に依存した点は大きな制約で、次のステップは行動テストや血中ホルモン測定で裏付けることになります。

またチーターなど野生ネコ科に“超ロング型”が皆無だった事実は、家畜化とブリーディングが「静かだけど人懐こい」遺伝子を温存してきた進化の実験室だったことを示す強力なヒントです。

実用面では、子猫期に DNA 検査で“おしゃべり度”の傾向を把握すれば、多頭飼いの相性チェックや「在宅勤務でも静かにしてほしい」家庭へのマッチングに役立つかもしれません。

ただし遺伝情報はあくまで“気質の目安”であり、選抜交配で性格を固定化しようとすると遺伝的多様性を損ね、思わぬ健康リスクを招く恐れがあることも忘れてはいけません。

研究チームは今後、純血種や去勢前個体を含む数千頭規模の全ゲノム解析と、脳 fMRI・声帯組織の組み合わせで「AR の長さ→脳回路→鳴き声」という因果ルートを解剖する計画を進めています。

ゴロゴロ音という“癒やしのエンジン音”の裏に潜む遺伝子スイッチを解明する試みは、猫だけでなく、人と動物のコミュニケーション進化を解き明かす鍵にもなりそうです。