ゴロゴロしやすさを遺伝子レベルで解析!

調査にあたってはまず、全国の飼い主に協力を呼びかけ、飼育歴や性格を網羅した101項目アンケートと口腔粘膜DNAをセットで回収、雑種かつ避妊去勢済みで血縁リスクの低い280頭を厳選されました。
さらにベンガルヤマネコ、チーターなど野生ネコ科11種のゲノムと照合して「家畜化がアンドロゲン受容体遺伝子をどう書き換えたか」という進化の足あとにも迫りました。
目指したのは“ゴロゴロを操る分子スイッチ”を探し出し、猫の行動遺伝学を犬並みにアップデートすることです。
次に飼い主には 101 項目の日本語版 Fe-BARQ を通じて、ゴロゴロの頻度から深夜の大運動会まで行動を 0〜4 点で評価してもらいました。
猫ちゃんたちの遺伝子と行動の両方を把握することで、特定の遺伝子と行動の繋がりを見つけられるからです。
結果、アンドロゲン受容体遺伝子(エクソン1部分)の 特定の反復(CAG)が 15〜22 回まで 8 種類見つかり、中央値 18 回を境に「短型」(S)と「長型」(L)に分類しました。
意外にも“22 回”という超ロングアレルは全体の 0.2% とレアで、大多数は 17〜19 回に集中していました。
年齢を補正した一般化線形モデルの結果、短型を持つ猫は長型より「ゴロゴロ」スコアが平均 0.04 ポイント高く、統計的に有意でした(β=-0.027, p=0.011)。
オスに絞ると短型が「人に向けた鳴き声」を 0.03 ポイント引き上げ(β=-0.022, p=0.037)、まさに“かまってボイス”の DNA 効果が浮き彫りになりました。
一方メスでは短型が「見知らぬ人への攻撃性」を 0.24 ポイント高め(β=-0.244, p=0.040)というギャップが現れ、ホルモン環境の違いを示唆します。
行動面の差は小数点以下ですが、アンケート総合点のわずか 0.1 ポイント差が実際には「毎日鳴く」か「週1回だけ鳴く」ほどの体感差になると考えると侮れません。
次に 11 種の野生ネコ科ゲノムを照合すると、チーターが持つ 19 回が最長で、20〜22 回という“超ロング型”はイエネコ固有でした。
つまり家畜化の過程で「そんなに鳴かなくても人が世話してくれる環境」が長型を温存し、品種改良が進んだ純血種でさらに頻度が高まった可能性があります。