人類で初めて太陽の極の観測に成功!明らかになった南極の“混沌”
では、ソーラー・オービターはどのようにして、この困難な観測を実現したのでしょうか?
その鍵は、「スイングバイ(またはフライバイ)」と呼ばれる宇宙機動技術にあります。
探査機は2020年に地球から打ち上げられた後、金星や地球の重力を何度も利用して軌道を変化させ、徐々に太陽の極域を観測できる軌道傾斜へと移行していきました。
この過程は非常に繊細な操縦を要し、誤差が積み重なると軌道から外れてしまいます。
さらに太陽に近づくにつれ、機体は500度を超える高温に晒され、通信も断続的になるという過酷な条件下での飛行となります。

それでも2025年3月、オービターは黄道面から約17度下の角度から太陽の南極を観測できる位置に到達。
複数の観測機器により、ついに人類は太陽の極域をその目で確認することができたのです。
ESAのディレクターであるキャロル・マンデル氏は、「本日、人類が初めて太陽の極を捉えた画像を公開します」と述べています。
そして取得された画像データから明らかになったのは、南極付近の磁場が予想以上に複雑で“混沌”としているという事実でした。

通常、磁場は北と南に分かれて整然と配置されるものですが、極域では両極性の磁場がモザイク状に入り乱れていたのです。
この「磁場の混沌」は、太陽極大期(太陽磁気が反転し、最も活発になる時期磁場反転期」ならではの現象です。
そして数年後の太陽極小期にに向けて、磁場がどのように再編されていくのか、そのプロセスを追跡することで太陽活動の未来予測精度が飛躍的に向上することが期待されています。
このように、ソーラー・オービターによる観測は、単なる極域画像の取得にとどまらず、太陽物理学のあらゆる分野に新たな光を投げかける出来事となりました。

そして何よりも心強いのは、これはまだ「第一歩」に過ぎないという点です。
探査機は今後さらに軌道を傾け、2029年には黄道面から最大33度まで傾いての観測が予定されています。
まさに、太陽という恒星を“あらゆる角度で”見つめる時代が始まっているのです。