日本では女性取締役が増えると業績が低下する:18年間のデータ分析が示す残念な結果
日本では女性取締役が増えると業績が低下する:18年間のデータ分析が示す残念な結果 / Credit:Canva
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日本では女性取締役が増えると業績が低下する:18年間のデータ分析が示す残念な結果 (2/3)

2025.06.25 17:30:43 Wednesday

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データが示す衝撃―日本企業では女性取締役が増えるほど利益率が下がる

データが示す衝撃―日本企業では女性取締役が増えるほど利益率が下がる
データが示す衝撃―日本企業では女性取締役が増えるほど利益率が下がる / Credit:Canva

日本企業で女性取締役を増やすことは、本当に企業の業績向上につながっているのでしょうか。

この大きな謎を解明するために、研究者たちはまず日本の上場企業1990社を対象に、2006年から2023年まで18年分の膨大な企業データを集めました。

研究ではまず企業ごとの取締役会メンバーに女性がどれくらいいるのかという比率や、少なくとも1人以上女性取締役がいるかどうかといった基本的なデータを確認しました。

(※調査期間(2006~2023年)における女性取締役割合の平均は約5%ほどでした)

次に企業の業績指標としてよく使われるROA(総資産利益率)とROE(自己資本利益率)のデータを集計し、女性取締役の数との比較を行いました。

ROA(総資産利益率)&ROE(自己資本利益率)とは?

ROA(総資産利益率)は、会社が持っている工場や店舗、現金などすべての資産をどれだけうまく使って利益を生み出したかを示す「資産の効率メーター」です。一方、ROE(自己資本利益率)は株主が出したお金だけに注目し、その投資がどれほどもうかったかを示す「株主の利回りメーター」です。(※ただしROE は借金(負債)が多いほど見かけ上高くなりやすいものでもあります)

分析にあたってはできるだけ正確な結果を出すために、企業の規模や負債の多さといった業績に影響しそうな他の要因を調整し、「女性取締役の数が増えること自体」が純粋に企業の業績にどのような影響を与えるかを統計的に確かめました。

その結果、研究者たちは少し意外なことに気づきます。

なんと女性取締役が多い企業ほど、業績指標であるROAやROEがはっきりと低下するという傾向が明らかになったのです。

具体的には、取締役会に占める女性の割合が標準偏差(約7.8%ポイント)ぶん増加すると、企業の利益率(ROA)が約0.10ポイント低下するという結果でした。

(※より簡単に言えば、たとえば取締役が 100 人いる会社で、女性取締役が 5 人(=5%)だった状況からプラス7.8%されて12~13 人(=約12.8%)へと増えた場合、研究モデルではROA が平均で 0.1 パーセントポイント程度下がるという計算になります。)

これは大きな下げ幅ではありませんが、偶然とは考えられない程度の明確な傾向であり、「女性を増やせば必ず業績は良くなる」という一般的なイメージとは反対の現象が確認されたことになります。

さらに女性取締役が1人もいなかった企業に1人以上女性が入った場合でも、ROAは平均で0.156ポイント低下するという興味深い結果が示されました。

また研究者たちは、「特に女性取締役の増加による影響が強く出る企業はどのようなタイプなのか」という視点で、さらに詳しく分析しました。

すると、小規模な企業や、負債を多く抱えている企業ほど、この負の影響が顕著であることが分かりました。

つまり小さな会社や借金が多い会社では、女性取締役が増えることで経営のスピード感が鈍り、判断が遅くなるという可能性が示唆されました。

一方で、機関投資家が多い企業やイノベーション主体の業界ではこの負の影響はあまり目立たず、むしろ規制の多い業界や消費者向けの商品を扱う業界でより顕著に見られました。

また、コロナ禍前と比べて、コロナ禍の間では女性取締役が増えた際のマイナスの影響がやや弱まる傾向があることも明らかになりました。

研究チームは、ここでさらに「女性取締役が増えたから業績が下がった」のか、あるいは「業績が下がった企業ほど女性取締役を増やした」のかという因果関係(どちらが原因でどちらが結果か)を明らかにするための追加分析を行いました。

具体的には、日本政府が進める「女性活躍推進政策」を利用し、この政策が企業に女性取締役を増やす影響を与え、その結果として企業業績がどのように変化したかを検証しました。

その結果、やはり女性取締役の増加が業績低下を引き起こしている可能性が高いことが改めて裏付けられました。

また、女性取締役の割合がある一定の割合(例えば30%)を超えると業績が改善するという『クリティカルマス理論』が海外ではよく知られていますが、日本企業ではこの理論に当てはまる現象は確認できませんでした。

そもそも日本の企業で女性取締役が3人以上いるケース自体が非常に少なく、女性比率が高い企業があまりに少ないことが原因である可能性があります。

結局のところ、この研究は日本企業において、単に女性取締役を増やすことが必ずしも業績向上につながるわけではないという重要な事実を示しています。

むしろ、女性取締役の人数を数値として単純に増やすだけでは、業績が改善するどころか逆に利益率が下がってしまう可能性が高いという意外な結果を明らかにしたのです。

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