月曜日は「概念化」して私たちの体に生物学的ストレスを与えている
月曜日は「概念化」して私たちの体に生物学的ストレスを与えている / Credit:Canva
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月曜日は「概念化」して私たちの体に生物学的ストレスを与えている (2/3)

2025.07.11 18:00:27 Friday

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「月曜日の憂鬱」は単なる心理的なものでなく実際に生物学的問題だった

「月曜日の憂鬱」は単なる心理的なものでなく実際に生物学的問題だった
「月曜日の憂鬱」は単なる心理的なものでなく実際に生物学的問題だった / Credit:Canva

「月曜日」は本当に生物学的にストレスの痕跡を残しているのでしょうか?

この謎を解明するため、研究者たちはまずイギリスで実施されている大規模な調査「イングランド長期縦断高齢者研究(ELSA)」に参加した50歳以上の高齢者3,500人を対象として、「日常の不安感」についての調査を始めました。

具体的には、参加者に「昨日どの程度不安を感じましたか?」という質問をし、0(まったく不安でない)から10(非常に不安)までの数字で回答してもらいました。

同時に、その回答した「昨日」が週の何曜日だったかも答えてもらい、参加者が「月曜日に不安を感じた人」と「他の曜日に不安を感じた人」のグループに分けられるようにしました。

次に研究チームは、心理的なストレスが実際に体の内部にどのような影響を与えるのかを調べるために、「コルチゾール」というストレスホルモンに着目しました。

コルチゾールはストレスを感じたときに分泌される代表的なホルモンで、体内のストレスレベルを知るための重要な指標です。

しかし、コルチゾールは血液や唾液から一時的に測ることもできますが、それではストレスが瞬間的なものか、あるいは慢性的で長期的なものなのかを判別できません。

そこで研究チームは、髪の毛を使ってコルチゾールのレベルを調べる方法を選びました。

実は髪の毛には、毎日のように分泌されるコルチゾールが少しずつ蓄積されていきます。

髪の毛が1ヶ月に約1センチ伸びることを利用して、2~3センチ程度の髪の毛を採取することで、過去2~3か月間のストレス状況を評価できるのです。

これはまさに、私たちの体が過去にどれだけストレスを感じていたかを正直に記録している「ストレス履歴書」のようなものです。

研究チームはこうして採取した髪の毛から、参加者の慢性的なストレスレベルを調べました。

その結果、非常に興味深いことが明らかになりました。

「月曜日に不安を感じた」と答えた参加者は、その後に採取した髪の毛に含まれるコルチゾール濃度が、他の曜日に不安を感じた人よりも平均で約23%も高かったのです。

この差は単なる偶然ではなく、年齢や性別、季節や髪質、喫煙習慣など、ストレスに関係しそうなさまざまな要因を差し引いてもなお、統計的に明確な結果として現れました。

さらに意外な発見は、この「月曜日ストレス反応」が現役で仕事をしている人だけでなく、既に退職して仕事から離れた高齢者においてもほぼ同程度に認められたということでした。

研究チームは、退職後には月曜日特有のストレスは自然と減少するだろうと予測していましたが、実際には退職者でもストレス反応が明確に見られたのです。

研究リーダーのタラニ・チャンドラ教授は、「退職後も続く月曜日ストレス反応は、私たちが『月曜日』という社会的リズムをいかに強く身体に刷り込んでいるかの証拠です」と述べています。

また、今回の研究ではもう一つ驚くべき結果が示されました。

実は月曜日は他の曜日に比べてそもそも不安を感じる人の割合が多いという特徴がありますが、だからといって「単に月曜日は不安を感じる人が多いから、ストレスホルモンが多く検出される」という単純な理由ではないことが判明したのです。

詳細なデータを丁寧に分けて調べた結果、月曜日にコルチゾールが増える理由のうち、単に「月曜日は不安を感じる人が多い」という事実で説明できたのは全体の約23%しかありませんでした。

言いかえれば、「不安を抱く人の割合が高いからコルチゾールも高い」という単純な因果では、4分の1程度しか説明できなかったのです。

残る約77%はどうかというと、同じ強さの不安でも「月曜日に感じた」という条件だけで、他の曜日に感じた場合よりも体内でいっそう強いストレス反応が起こることに由来していました。

つまり、“月曜日”という曜日そのものが持つ特別な効果が、コルチゾールを押し上げる大きな要因になっている──このことがデータからはっきり示されたのです(※理由は後述)。

言い換えれば同じ強さのストレスや不安でも、火曜日や水曜日よりも月曜日に感じた方が、はるかに私たちの身体に深く刻み込まれるということです。

他の曜日で感じた不安と、その後のストレスホルモンの量との間には明確な関連は見られず、唯一月曜日だけが際立って強い影響を示したことからも、この結論はより一層確かなものとなりました。

月曜日という曜日が私たちの身体にこれほど深く影響を与えているとは、いったい何が原因なのでしょうか?

曜日が持つこの不思議な力の正体について、研究チームはさらなる調査を続けています。

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