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「気づいたときは手遅れ?」なぜ熱中症は自覚できないのか? (2/2)

2025.07.26 12:00:07 Saturday

前ページ渇きを感じるのは、すでに“遅い”タイミング

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熱中症のとき体で何が起きているのか?

汗は“血液から作られる”冷却システム

私たちの体は、外が暑くても中の温度(体温)を一定に保つよう、いくつもの工夫をしています。このように、体が外の環境変化にうまく対応しようとする反応のことを「補償反応(compensatory response)」と呼びます。

熱中症の初期には、この補償反応が体内でフル稼働します。

たとえば、体温が上がってくると、まず心臓が強く速く動くようになり、血液を皮膚の表面にたくさん送るようになります

体の中では、熱が筋肉や内臓の活動によってどんどん生まれています。これを逃がさずにいると、体温は上がり続けてしまいます。このとき血液が、“体深部の熱を運ぶ配送車”のような役割をして、熱を皮膚の表面まで運び空気との間で熱交換します。こうして皮膚から外気に向かって体温が放出されていくのです。これによって、身体は体温を一定に保とうと調整します。

同時に、汗腺という組織が働いて汗を出します。汗が皮膚から蒸発するときに熱を奪うので、これも体温を下げる仕組みのひとつです。

ところが、この冷却方法には大きな弱点があります。汗の原料は、血液から取り出した水分や塩分(ナトリウムなど)なのです。つまり、たくさん汗をかくということは、体の中の水分と塩分がどんどん失われていくことを意味します。

そのため、水分や塩分の補給が間に合わなければ、血液量は少なくなり、汗も出にくくなっていきます。また、皮膚に熱を逃がすための血流を送る余裕もなくなっていきます。

このように、体の冷却機能がだんだんと追いつかなくなってくると、いよいよ体温が急上昇し始め、補償反応の限界を超えてしまうのです。

限界を越えると“急激に悪化”する

長時間にわたって暑さにさらされ続け、体の補償反応が対応しきれなくなると、いわゆる熱中症になります。

この段階では、脱水症状とともに体温を下げるための皮膚への血液輸送が優先され、脳や内臓への血流が減っていき、めまいや立ちくらみ、吐き気、頭痛、判断力の低下などが現れます。ここで適切な処置をすれば回復できますが、無理を続けると体温がさらに急上昇し、深刻な状態に陥ります。

特に問題となるのが「熱射病」と呼ばれる重症の熱中症です。体温が40℃近くまで上がり、脳や内臓の働きに重大な障害が起こりはじめます。なかでも「腸」は熱に弱く、血流不足や高熱の影響で、腸の細胞が壊れてしまうことがあります。

ふだん腸は、体に悪いものが入り込まないように「バリア」の役割を果たしていますが、この機能が壊れると、腸内の細菌や毒素(エンドトキシン)が血液中に漏れ出してしまいます。その結果、体の免疫が過剰に反応し、「全身性炎症反応(SIRS)」という危険な状態を引き起こすことがあります。

ただし、これはすべての熱中症で起こるわけではなく、放置されたごく一部の重症例で起きる現象です。それでも、こうしたリスクがある以上、初期の段階での早めの対処が命を守ることにつながります。

大丈夫”と思ってしまう心理が症状を悪化させる

研究では、熱中症のリスクが見逃されやすいのは、初期の症状がごく軽く感じられるからだと指摘されています。たとえば、だるさ・めまい・立ちくらみといった初期の兆候は、ただの疲れや寝不足のようにも思えてしまいます。

さらに、屋外での作業やスポーツの現場では、「自分だけ休むのは気が引ける」「みんな頑張っているから」といった心理的プレッシャーが重なります。これが対応の遅れにつながり、症状を悪化させる要因になると報告されています。

つまり、熱中症を予防できずに突然倒れてしまうという問題は、症状を自覚しづらいだけでなく、周囲と合わせようとする頑張りや我慢など、心理的な作用も大きな要因になっているのです。

 対策は「体の仕組み」を理解することから

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水分補給は確かに重要です。ただし「のどが渇いたときに飲めばいい」では遅いのです。

のどが渇いたという信号は、汗によって血液中の水分と塩分が失われる速度が早い高温の環境下では知らせるタイミングが手遅れになる可能性があります。そのため喉が乾く前に、こまめに水と塩分を補給しなければ、体の冷却システムがうまく働かなくなってしまうのです。

また、この水分補給について、「コーヒーやお茶はカフェインが含まれているから、飲んでも逆に水分が失われる」などの意見を聞くことがあります。たしかに、カフェインには軽度の利尿作用(尿の量を増やす作用)があることは昔から知られています。

しかし、だからといって「水分補給に不適切」というわけではないというのが、近年の科学的な見解です。

たとえば、2016年にイギリスのラフバラー大学で行われた研究(Maughan RJ,et al. 2016)では、日常的にカフェインを摂取している男性たちを対象に、ミネラルウォーターとコーヒーを比較しました。その結果、コーヒーであっても水分保持能力は水と同程度であり、「コーヒーも有効な水分補給になりうる」と結論づけられています。

また、日常的にカフェインに慣れている人の場合、利尿作用は次第に弱まることもわかっています。そのため、たとえば毎日お茶やコーヒーを飲んでいる人が、夏場にそれらを飲むこと自体は、極端な量でなければ問題ないと考えられています。

そしてもっとも見逃せないのが、心理的な要因です。

私たちは日常生活の中で「まだ大丈夫だろう」「若いから平気」「自分だけは大丈夫」といった思い込みを持ってしまいがちです。また多少しんどい程度なら、いちいち休憩したり、助けを求めてはみんなの迷惑になる、というような意識も熱中症の原因になっていることが、論文でも指摘されています。

このようなメカニズムで熱中症は、あらかじめ予防していないと対処できない部分が多く、僅かな異変に気づいた段階で手遅れになる可能性が高いのです。

こまめな水分補給や、休憩など、自分にはまだ必要ないと思ってもそれを実施していないと思わぬ惨事に陥ってしまうのです。十分に注意しましょう。

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「気づいたときは手遅れ?」なぜ熱中症は自覚できないのか? (2/2)のコメント

ゲスト

真夏の夜にランニングしてて気持ち悪くても頑張ってたら過呼吸、吐き気、頭痛、めまい、ふらつきでこけそうになってやばかった時あったな。
30分ほど路上でうずくまってたら回復したから家に歩いて帰った記憶。

ゲスト

そこで点滴というチート技術が登場です。
空調服みたいな感じで外部から強制的に水分放り込む装置も必要かもしれないですね。
点滴は胃腸介さないので効果すぐに出ますし、入りすぎてもすぐおしっこになりますから。
点滴の技術があればあなたにも異世界転生組のような活躍が。
もうデューン砂の惑星の世界ですよ。
あっちと違うのは水分が有り余っていることくらい。

ゲスト

まずは日本人の社畜精神を根底から覆さないと…

ゲスト

ペルチェ式空調服フアン4個でバッテリー5000ma装備
それでも炎天下は短時間しか作業はできない
決定打ば大量の水と頻繁トイレ

ゲスト

塩分と水分の両方が必要なのに、ことさら水分補給だけを促すのが多いから、勘違いしている人が多い

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