恋する男女の創造性変化

魅力的な異性の存在は人間の創造性をブーストするのか?
この興味深い謎を解明するために、研究者たちはまず実際の恋愛状況に近いシナリオをオンライン上で再現し、男女の創造性の変化を詳細に調べることにしました。
研究の目的は、「恋愛対象となる異性の魅力度や、その異性が望む交際のタイプ(長期的か短期的か)によって、人間の創造性がどのように変化するのか」という問いへの明確な答えを得ることでした。
この問いに答えるため、ポーランドに住む成人男女約1,000人を対象に、2つの大規模な実験を実施しました。
この2つの実験は、どちらも架空の「オンラインデートサイト」を使った実験ですが、それぞれが異なる形で創造性を測定しています。
まず、実験1では、参加した約480名(男女ほぼ半数ずつ)をランダムに2つのグループに分けました。
片方のグループには「容姿が魅力的な異性の写真」を、もう片方のグループには「容姿があまり魅力的でない異性の写真」を見せました。
写真を見ることは、実際にその相手とデートすることを意識させるための工夫です。
写真を見終わった参加者は、オンラインデートのプロフィールに載せるための「自己紹介文」を書きました。
これは自分自身を異性にアピールするための重要な機会であり、自分の良さや特徴をできる限り魅力的かつ創造的に伝える必要がありました。
研究者たちは参加者が作成した文章を集め、「どれほど多くのアイデアを出しているか(流暢性)」、「どれほどユニークで面白いアイデアを出せているか(独創性)」、「どれだけ多様なテーマを取り入れているか(柔軟性)」など、さまざまな観点からその創造性を評価しました。
もし魅力的な相手の容姿に創造性が刺激されたなら、より魅力的な相手の写真を見た被験者はプロフィールがより創造性の溢れるものになるはずです。
しかし結果はやや意外なものになりました。
どれだけ魅力的な異性の写真を見たかどうかは、創造性の「全体的」なスコアには大きく影響しないことがわかりました。
しかし、創造性の種類ごとにみると、興味深い男女差がみえてきました。
男性参加者は、創造性の要素の中で、自己紹介文の中で特にユニークさや斬新な視点(独創性)を発揮する傾向がありました。
これに対して女性参加者は、創造性の要素の中で、より多くのアイデアを取り入れたり(流暢性)、自分の長所や魅力を積極的にアピールする傾向が強かったのです。
つまり男性は「個性的なアピール」を、女性は「多彩な魅力」をそれぞれ強調していたのです。
次に行われた実験2では、さらに踏み込んで異性のプロフィールが「長期的な交際を望んでいる場合」と「短期的な交際を望んでいる場合」で、創造性がどのように変化するかを調べました。
今回の実験では約500名の参加者が参加しました。
参加者は全員「容姿が魅力的な異性」のプロフィールを見ましたが、重要な違いとして、プロフィールに書かれている交際タイプが異なりました。
半数のプロフィールには「真剣に長期的な交際を望んでいる」と書かれており、もう半数には「気軽な短期的な関係を望んでいる」と書かれていました。
参加者はプロフィールを読んだ後に、自分が最もデートしてみたいと思う相手を1人選びました。
次に創造性のテストが実施されます。
実験2の創造性の測定方法には、心理学でよく使われる「オルタナティブ用途テスト」という課題を用いました。
これは、日常的に使う物(例えば靴、ハンマー、タオル、口紅)に対して、「本来とは異なる面白い使い道」をできるだけたくさん考え出すというものです。
参加者はプロフィールを見る前と後の2回、このテストに挑戦しました。
これにより、「プロフィールを見て相手を選ぶという状況」が、参加者の創造性をどれほど変化させるかを明確に比べることができました。
実験の結果、女性だけに興味深い現象が見られました。
女性参加者は、長期的な関係を望む異性のプロフィールを見て、その相手を選んだ場合、短期的な関係を望む相手を選んだ場合よりも、より多く(流暢性)かつ独創的(ユニーク)なアイデアを考え出す傾向がありました。
これは、女性が進化的に「安定したパートナー」を選ぶ際に、自分自身の魅力を相手に強く印象づけようと創造性を発揮する可能性を示唆しています。
ところが、ここでさらに興味深い事実が明らかになりました。
女性が選んだ相手に対して強い魅力を感じ、性的興奮が高まるほど、「たくさんのアイデアを考える能力」や「アイデアの独自性」が逆に低下してしまったのです。
つまり、相手に強く惹かれすぎて興奮してしまうと、かえって創造性が抑制されるという予想外の結果でした。
その理由として研究者たちは、「性的興奮が高まりすぎると、自由にアイデアを発想するための集中力が失われたり、創造性に必要な注意力が低下する可能性がある」と考えました。
一方、男性の場合には、このようなはっきりとした創造性の変化や性的興奮による抑制効果は確認されませんでした。
男性は、長期的または短期的な交際タイプの違いや、相手への魅力度によって創造性が変化することはありませんでした。
では、なぜ男性には女性のような創造性の抑制が見られなかったのでしょうか?
また、性的興奮が女性の創造性を抑制してしまう詳しいメカニズムは何なのでしょうか?