恋愛における「慎重さ」と「アピール」の絶妙なバランスを進化心理学で解く

以上の結果は、女性の創造性と恋愛動機の間に進化的なトレードオフ(ジレンマ)が存在する可能性を示唆しています。
魅力的な長期候補のパートナーを前にした女性は、「自分をより良く見せたい」という欲求から創造的なアピール戦略(アイデアの流暢性と独創性)をとる一方で、性的興奮が強まるほど、これらの創造性が抑制されるという相反する傾向が同時に起きるのです。
研究チームは、女性は魅力的な相手に選ばれるため目立とうとする一方で、性的興奮によって注意が狭まり、自由で多様な発想(発散的思考)が抑制される可能性を指摘しています。
言い換えれば、女性には、進化の中で性的興奮によるリスクを回避し、より確実に長期的に投資してくれる相手にエネルギーを注ぐような心理的なブレーキが進化した可能性があります。
強い性的興奮は将来的な高リスク(妊娠など)を誘発する可能性があり、それが発想の流暢性(アイデアの数)や独創性(オリジナリティ)という創造的自己アピールを抑制する方向に働いた可能性があるのです。
今回の実験はまさに、女性の心の中で理性と情熱がせめぎ合う進化的な綱引きが起きていることを示したと言えるでしょう。
一方、男性の創造性は女性とは異なるメカニズムに従っているようです。
男性では、長期志向・短期志向いずれの相手でも創造性(流暢性・柔軟性・独創性)の変化は見られず、性的興奮による抑制効果も認められませんでした。
ただし、男性は恋人がいない場合(独身時)には創造力テストで発想の流暢性がやや高い傾向が見られるなど、動機付けによる差は確認されました。
この違いは、男女それぞれが直面してきた進化上の課題の違い(妊娠リスクや子育て投資の差など)による性特異的な進化圧を反映していると考えられます。
もちろん、今回の研究結果は「女性は魅力的な相手にドキドキすると創造性が下がる」と単純化して断言できるものではありません。
研究手法にも限界があります。
例えば実験1では予想に反して写真の魅力度による差が出ませんでしたが、これについて研究者らは「魅力的な異性に評価されるストレス」や「写真だけでは現実感が乏しい」ことなど複数の要因を挙げています。
実際、写真だけの閲覧と違い直接会って会話すれば、相手のしぐさや声、匂いなど様々な刺激が加わって創造性にも一層影響を与える可能性があります。
今後は実験環境をさらに現実の出会いに近づけたり、参加者をより多様な地域・背景から募ったりすることで、恋愛文脈での創造性の役割を長期的に追跡する研究が望まれます。
それでも本研究は、創造性という人類の高次な認知能力が恋愛という文脈で微妙に揺れ動く様子を捉えた点で興味深い意義を持ちます。
現代のオンラインデートにおいても、ユニークな自己紹介やウィットに富んだメッセージは相手の心をつかむ重要な手段です。
恋と創造力の絡み合いという、一見無関係に思える要素同士が影響し合う様を解明した本研究は、私たちの進化の歴史が現代の恋愛行動やクリエイティブな表現にまで影響を及ぼしていることを示唆しています。
今後さらなる研究が進めば、恋における創造性の活用法や、男女の感じ方の違いへの理解が深まり、より豊かな人間関係を築くヒントが得られるかもしれません。
女性の場合は性的な興奮状態にあるということはそういうことなわけですから、そこで創造性発揮してる場合じゃないってやつですね。