1回の整髪で100億個以上のナノ粒子が肺に沈着しているかも
実験の結果、わずか10〜20分の整髪中に、空気中には1立方センチあたり1万〜10万個のナノ粒子が発生するケースが観測されました。
特にアイロンやコテの温度が150℃を超えたあたりから、粒子の発生量が急激に上昇。
実験の中では、特に230℃でスタイリングを行ったケースで、最大で100億個以上のナノ粒子が呼吸器内に沈着する可能性が示されました。
この数字は、タバコを数本吸ったときの肺への影響に匹敵する量とされています。
ナノ粒子は非常に小さく、鼻や喉をすり抜けて肺の奥深く、肺胞(はいほう)と呼ばれる部位にまで沈着します。
こうした粒子は血流にまで入りこむ可能性があるのです。
では、なぜこんなにも大量の粒子が発生するのでしょうか?
研究によれば、多くのヘアケア製品に含まれるシロキサン類(とくにD5と呼ばれる成分)が熱によって気化し、その蒸気が冷やされることでナノサイズの微粒子に凝縮すると分かっています。
つまり、熱、整髪料、そして室内空気の化学反応が重なり、見えない「ナノ粒子スモッグ」が一瞬にして発生しているというわけです。
特に繰り返し毎日使用されることを考えると、他の研究でも指摘されているように、ナノ粒子の生体蓄積、呼吸器系の炎症、神経系への影響といった健康リスクが懸念されます。
もちろん、今回の研究には、「参加者が少ない」「一部の製品しか分析されていない」など限界もあります。
それでも、これまで見落とされていた室内環境リスクを初めて定量的に明示した点で貴重な一歩であり、今後はより多様な製品と環境での研究が求められています。
「じゃあ今すぐドライヤーやアイロンを捨てなきゃ!」と思った方もいるかもしれません。
でも、適切な対策を取れば、リスクは十分に軽減できます。
実験でも有効だった対策としては、スタイリング時に換気扇を回す(ナノ粒子濃度が90%以上低減)こと、ヘアアイロンの温度を150℃以下に設定すること、シロキサン不使用(ノンシリコン)の整髪料を選ぶことなどが挙げられます。
私たちは、便利な製品を安心して使うために、「目に見えないリスク」にも目を向ける必要があります。
科学がそれを教えてくれるのなら、ただ怖がるのではなく、「知って対処できる」はずです。