未来の出来事まで鮮明に予見できる?
研究者たちはTLの能力を客観的に測定するために、標準化されたテストを実施しました。
そのひとつ「エピソード自伝的記憶テスト(TEMPau)」では、人生のさまざまな時期の出来事をどれだけ具体的に思い出せるかを評価します。
彼女の年齢に合わせて幼少期と青年期に限定して行われましたが、得点は平均をはるかに大きく上回り、極めて豊かな記憶描写を示しました。
さらに「時間拡張自伝的記憶課題(TEEAM)」では、過去や未来の出来事を短いエピソードとして思い出したり想像したりする力を調べました。
TLはここでも驚異的な成績を収めました。
特に注目されたのは、彼女が未来の出来事を「まるで体験済みであるかのように」語れる点です。
例えば彼女は、まだ起きていない未来の出来事について、時間的・空間的・感覚的にきわめて詳細な描写を加えました。
そこには「予体験」と呼ばれる独特の感覚が伴っており、まるで過去を思い出すのと同じように未来を“先取り”して体験しているようだったのです。
(※ 彼女は未来を当てれるわけではありません。私たちも未来の出来事を想像することがありますが、TLの場合は、その出来事が鮮明な感情や知覚を伴って現れるため、さも現実に起こったかのように体験してしまうのです)

もっとも、時間的にかなり離れた遠い未来に関しては一般の人々と同じように鮮明さが低下する傾向が見られました。
時間的距離が大きいほど、イメージがぼやけてしまうのです。
それでもなお、彼女の「心的時間旅行」の能力は突出しており、研究者たちを大いに驚かせました。
この症例は、私たちが未来を想像するときに用いる脳の仕組みが、過去を意識的に思い出すときと共通している可能性を示唆しています。
そしてTLの場合、そのプロセスが並外れて鮮明かつ意識的に制御されているのです。
TLの症例は、記憶が単なる情報の集積ではなく、感情や自己意識、未来の予見にまで結びつく複雑なシステムであることを浮き彫りにしました。
これまでのハイパームネジアは、多くの場合「記憶の洪水」に苦しむものと考えられてきましたが、TLはむしろそれを整理し、ある程度コントロールできている点でユニークです。
彼女の「心の部屋」や「未来の予体験」は、記憶と感情、想像力の結びつきを理解する上で新たな手がかりとなるでしょう。
部屋はもしかしたら比喩でなく、脳の中に神経回路の構造として実際に構築されていそうですね。驚きなのはそれをメタ的にオペレーションできているところですが、その部分こそがこの少女の能力の核心なのかも。
すぴってんなぁ
>>すぴってんなぁ
「部屋はもしかしたら比喩でなく、脳の中に神経回路の構造として実際に構築されていそうですね。」との記載(なお、私のコメントではありません)に対してのコメントであれば、別にスピってないと思いますよ。
多言語話者では使う言語毎に専用の脳領域があることが知られていますが、これだけ鮮明な記憶オペレーションを長年に渡って行なっているのであれば、脳内の神経回路に常人と異なる特徴が外見的にも表れている可能性が高いですし、機能毎に場所が区別できる可能性も十分あるかと。