「電気で動くレンズ」――液晶レンズのしくみを解説

新型液晶レンズは、どのような仕組みでピントの調整をしているのでしょうか。
その鍵を握るのが、「液晶」という物質が持つユニークな性質です。
液晶は液体のように自由に流れる一方で、分子が一定の方向に規則的に並ぶという、固体の結晶のような特徴も持っています。
そして、この液晶分子の並び方は、電気をかけることで自由に変化させることが可能です。
通常のメガネレンズでは、表面の形状(凸レンズや凹レンズのような曲がった形)によって光を曲げ、ピントを合わせます。
しかし、液晶レンズの場合、レンズの表面形状は変えずに、内部の液晶分子の並び方だけを変化させることで、光を曲げる力(屈折力)を調整できるのです。
具体的には、透明なレンズ基板(レンズを形づくる土台)の内部に液晶を入れ、その液晶に電圧を加えると、液晶分子の並ぶ方向が揃ったり変わったりします。
この液晶分子の並ぶ方向によって、光がどれくらい強く曲がるかが変わるので、レンズの焦点位置(ピントが合う位置)も変えることができるという仕組みです。
この方式が画期的なのは、レンズの表面を物理的に動かさなくても、電気信号ひとつで自在にピント調整ができる点です。
これまでのようにモーターや機械的な仕掛けを使わないため、故障が少なく、消費する電力も非常に小さいことが期待されています。
とはいえ、これまでの液晶レンズにも大きな課題がありました。
従来の液晶レンズは、小さく、厚みがあり、実際にメガネとして使うには視野(はっきり見える範囲)も狭かったのです。
そのため、実用的なメガネとして日常的に使うには難しいという問題が指摘されていました。
今回の研究チームは、こうした従来の液晶レンズの弱点を克服するために、レンズを薄く、大きく、そして実用的な焦点調整ができるような設計を目指しました。
その結果、直径約10mm程度の範囲内でピント調節が可能な試作レンズを作ることに成功しました。
また新たな液晶レンズは従来のような分厚いガラス基板(0.3 mm)を用いた場合と比較して、動作に必要な電圧を約15分の1に大きく減らすことができました(40 VRmsで約8.1πの位相変化を達成)。
次に研究チームは、この試作レンズを実際にメガネフレームに組み込み、日常的に使えるかどうか性能をテストしました。
メガネフレームには小型の電池と電子回路が組み込まれていて、ボタンを押すとレンズに電圧がかかり、液晶の分子の向きを変えてピントを切り替えます。
この実験の結果、ボタンを押してから焦点が切り替わるまでの時間は約5秒ほどでした。
切り替わった後、約10mmの作動範囲内では遠くも近くもはっきり見えることが確認できました。
従来の遠近両用レンズでは、視線を動かして見る位置を変えなければならないため、これは大きなメリットです。
もちろん、現段階ではまだ課題も残っています。
現在の試作レンズは焦点を切り替えられる範囲が約10mm程度と狭いため、今後さらに実用的にするには、レンズの作動範囲を広げる必要があります。
また、ピントが合うまでの約5秒という時間も、実際に使う上ではもう少し短縮する必要があるでしょう。
研究チームはこれらの課題に取り組み、将来的にはレンズのサイズを大きくし、より広い視野を持ち、焦点調整の速度も速くした液晶レンズの開発を目指しています。
もしこれが実現すれば、他の競合する技術に比べても、より快適で実用的なメガネが誕生する可能性があります。