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psychology

同じ講義内容でも教授の性別によって学生の評価が異なっていた (2/3)

2025.09.12 21:00:26 Friday

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先生の性別が違うと同じ内容でも評価に差が出る

Study2の男女を合わせた結果
Study2の男女を合わせた結果 / Credit:The boys’ club: gender biases in students’ evaluations of their philosophy professors

研究チームは、イタリアの大学で哲学を専攻している学生約190人を対象に、二段階の実験を行いました(Study 1は95人、Study 2は92人)。

まず最初の実験(Study 1)では、「授業の評価に教授の性別は影響するのか?」という疑問を検証しました。

この疑問をはっきり確かめるためには、「性別以外の条件をすべて同じにすること」がとても大切です。

そこで研究者たちは、全く同じ内容の講義テキストを用意し、それに架空の教授名をつける方法を取りました。

ここで使った名前は、「男性教授の名前」と「女性教授の名前」の2つのタイプを準備しましたが、実際の講義内容はまったく同じです。

こうすることで、「学生がつける評価に差が生じた場合、その理由は教授の性別によるもの」とはっきり分かるわけです。

この実験で、学生たちは教授がどのくらい「分かりやすく説明しているか(明瞭さ)」「内容が興味深いか」「教授が有能だと感じるか」「自信を持って説明しているか」「内容から得られる学びは多いか(便益)」「学生への思いやりや配慮があるか」、そして「自分がその先生の授業を実際に受けたいと思うか(受講意欲)」という7つの項目について評価しました。

評価は「1(全く当てはまらない)」から「7(非常によく当てはまる)」までの7段階評価です。

その結果、教授の性別を「名前」だけで示した条件では、男性学生に明らかな性別による偏り(バイアス)が現れました。

具体的には、男性学生たちは男性教授の名前が書かれた講義を、「わかりやすい」「興味深い」「有能である」「自信がある」「学びが多い」といった多くの重要項目で高く評価しました。

一方、女性教授名が書かれた講義に対する評価は、それらの項目で明らかに低くなりました。

ただし、「学生への配慮や思いやり」の項目だけは女性教授の方が高く評価されました。

女性の学生たちは、男性学生ほど性別による大きな偏りを示さず、ほとんどの項目で性別による評価は有意な差に達していませんでした。

しかし、「この教授の授業を本当に受けたいかどうか」という、自分自身の行動に関わる評価(受講意欲)の場合には、女性学生であっても男性教授を選ぶ傾向が見られました。

これはつまり、「頭では公平に評価しようとしても、自分自身の行動や選択に関しては無意識の偏見が影響を及ぼしてしまった」可能性を示しているのです。

次の実験(Study 2)では、より現実に近い条件で検証するため、講義内容を文章ではなく、音声で学生に聞かせました。

内容自体は先ほどと全く同じですが、今度は実際に男女の声を使って録音したものを学生に聞いてもらったのです。

声はその人が男性か女性かを強く印象付ける要素ですから、この方法を使えば性別による影響がよりはっきりと現れる可能性があります。

その結果、驚くことに、音声条件では男女どちらの学生も、男性教授が話した講義の方をほとんど全ての項目で高く評価するという傾向が明確になりました。

具体的には、「明瞭さ」「興味深さ」「有能さ」「自信」「学びの多さ」「受講意欲」のすべてで男性教授の評価が高くなりました。

ただ一つの例外は、ここでもやはり「学生への配慮や思いやり」の項目で、この点においてのみ女性教授の評価が高かったのです。

これは、「男性は授業を上手く教えられる能力があり、女性は学生に対して親切である」という、私たちが無意識に抱いているステレオタイプ(固定観念)が評価結果にそのまま反映されてしまった可能性を示しています。

さらに重要なのは、この偏った評価の傾向は、学生自身が「男女は平等であるべきだ」という意識を持っていてもほぼ変わらなかったということです。

研究者たちは、参加者がどの程度「社会的な男女平等」に対して意識を持っているかもアンケートで調べましたが、たとえ平等意識が高い学生であっても、有能さや自分が受講したいかどうかという点で男性教授をより高く評価する傾向が変わらなかったのです。

つまり、自分では「性別による偏見なんて全くない」と思っていても、評価を下す場面になると無意識の偏見の影響を受けてしまうことがあるということです。

今回の2つの実験結果は、授業の評価や教授の評価が、私たち自身が気づいていないところで強く影響を受けている可能性をはっきりと示しました。

その影響とは、教授が男性か女性かという「性別の差」によるものだったのです。

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