シンプルな理論で今の宇宙構造は説明できる

「インフラトンなしのインフレーション理論」からどうやって物質密度のムラが出現するのか?
答えを得るため、研究者たちはダークエネルギーと同じような性質を持つデ・ジッター空間(一定の割合で膨張する宇宙モデル)を使って、ビッグバン直後の宇宙を再現しました。
その中で生じる重力波が密度ゆらぎを生み出す過程を理論計算によって明らかにしました。
その結果、量子ゆらぎから生じる重力波(一次的な揺らぎ)が互いに作用し合い、“二次的”な密度ゆらぎを成長させることが判明しました。
池に小石をいくつも投げ込むと、波が互いに重なり、最初の波よりも大きな波が生まれるのと似ています。
一次重力波が「小石が生んだ小さな波」、二次重力波が「波同士が重なり合ってできるより大きな波」です。
このように生じた二次重力波は、次第に物質密度の微妙な「ムラ」を形成していきます。
研究では、こうして重力波によって作られたムラこそが、のちに銀河や星などの宇宙の構造をつくる種となったと考えられています。
つまり、今の宇宙の姿は重力波の重ね合わせの妙によって紡がれたと言えるでしょう。
さらに興味深いことに、宇宙で光や素粒子が主役となる状態(放射優勢期)になると密度ムラの成長が止まり、膨張も自然に終息へ向かうことが示されました。
理論では、重力波によって作られた密度ムラは永久に成長し続けるわけではないことが示されています。
宇宙が膨張していくと、真空の崩壊から空間内部に光や粒子が出現する時期(既存の理論でビッグバンと呼ばれる時期)が来ます。
そして光や素粒子が自由に宇宙を飛び交いはじめると、これまでとは宇宙の状況が大きく変化します。
研究では、物質が出現する時期になると、これまで膨張を続けていた宇宙の密度ムラは成長が抑えられることが示されました。
これはつまり、宇宙がインフレーションという急激な膨張を終えて安定する仕組みを自然に説明できる可能性があるということです。
これまでのインフレーション理論では、この「インフレーションの終わり方」を明確に説明することが難しかったので、これは画期的なポイントです。
実際、この新しいモデルで計算された密度ゆらぎは、宇宙全体のサイズに対してほぼ均一な強さを持ち、私たちが実際に観測している宇宙のデータとうまく一致する可能性があります。
波が砂浜に砂を寄せ集めて模様を作るように、宇宙の「時空のさざ波」(重力波)が物質を寄せ集めて銀河や星のもとになる濃淡を作ったというわけです。
つまり宇宙の創生には未知の超高エネルギーの宇宙の元となる「インフラトン」など必要なく、重力と量子力学だけで説明できる可能性が示されたことになります。
実際、研究を主導したラウル・ヒメネス博士も「私たちは何十年も、観測されたことのない要素に頼ったモデルで宇宙初期を説明しようとしてきました。
しかし、この提案の何が興奮的かというと、その単純さと検証のしやすさです。推測上の要素を付け足すのではなく、重力と量子力学だけで宇宙の構造が説明できるかもしれないと示したことです」と語っています。