いじめは脳にどんな影響を残すのか?
いじめられたときの脳の影響を測るというのは、いじめ状況の再現という面で難しい問題があります。
従来の実験では、ボール回しから仲間外れにされる「サイバーボール(Cyberball)」のような単純化された課題を用いて、いじめが脳に与える影響が調査されていましたが、これでは実際のいじめ場面にあるような嘲笑、威圧、身体的接触、立場の上下などの“複雑さ”を十分に捉えられていません。
そのため、脳の影響については現実のいじめに近い刺激で脳反応を測る研究が求められていました。
そこで今回の研究チームは、実際の学校を舞台に子役が演じた一人称視点の短編映像を用意しました。
この映像には、からかい、排除、暴言、軽い身体的接触などのいじめ行為、そして対照としての好意的なやりとりが含まれています。各動画は20〜87秒で、合計12本、視聴時間は約9分です。
一人称視点での提示により、視聴者が“自分がその場にいる”感覚で状況を受け取り、より自然に近い脳反応が引き出されるよう工夫したのです。
この動画群が実際にいじめの状況を再現できているかについては、別の成人参加者235人がオンラインで「いじめの強さ」と「好意的やりとりの強さ」を時間経過に沿って評価し、その“強さの波形”をのちの脳解析のものさし(説明変数)として使いました。
本実験の参加者はフィンランドの思春期51人(11〜14歳)と成人47人(19〜39歳)です。
研究者は参加者に映像を見せながら機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で脳全体の反応を測定しました。
分析では、モデル化された映像の各時点の「いじめの強さ」と「好意的やりとりの強さ」を時間的に脳活動に重ね合わせ、どの脳領域がどの場面で反応するかを調べています。
あわせて、参加者それぞれの実生活でのいじめ被害経験も調べました。
思春期の参加者には「同級生からの被害」について尋ね、成人では「子ども時代のいじめ被害やその期間」「現在の職場でのいじめ被害頻度」を尋ねました。
この分析では、いじめ被害と共起しやすい症状(不安や抑うつ)の有無や、成人後にいじめ被害にあっているかも考慮して統計モデルに組み込み、子どもの頃のいじめ被害歴と脳反応の関連を厳密に評価しました。
果たしていじめは脳にどんな影響を与えていたのでしょうか? それは大人になって以後も残っていたのでしょうか?