脳の中で何が起きているのか?
さらに興味深いのは、脳画像検査で明らかになった「脳の変化」です。
研究では、一部の参加者を対象にMRI(磁気共鳴画像)とPET(陽電子放射断層撮影)による脳スキャンを実施。
まずMRI画像では、小さな脳損傷(しばしば脳血流障害や小さな血管の障害と関連)が、不眠かつ睡眠時間が短いグループで多く見られました。
こうした微細な損傷は、脳の老化や将来の認知症発症リスクの高さを示す“サイン”ともいえます。
一方で、「不眠だが睡眠時間は長い」人たちでは、こうした変化は少なく、睡眠の質や量の違いが脳のダメージパターンにも影響することがうかがえました。
また、PET検査ではアルツハイマー型認知症の特徴である「アミロイド斑」の蓄積量も測定されました。
不眠かつ睡眠時間が短い人は、調査開始時点ですでにアミロイド斑が多く見られ、その影響の大きさはアルツハイマー病の有名なリスク遺伝子「APOE e4」を持つことに匹敵するレベルでした。
この結果は「睡眠障害が脳の血管だけでなく、神経変性疾患の引き金となるタンパク質の蓄積にも関係している」ことを裏付けています。
なお、睡眠薬(催眠薬)の使用についても検証が行われましたが、本研究では「睡眠薬の使用自体が認知機能低下や脳の変化を加速させる」傾向は見られませんでした。
ただし、薬の用量や使用頻度・期間までは詳細に評価されておらず、今後のより精緻な研究が待たれます。