睡眠は5種類に分類できると判明――あなたはどのタイプ?
睡眠は5種類に分類できると判明――あなたはどのタイプ? / Credit:Canva
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睡眠は5種類に分類できると判明――あなたはどのタイプ? (2/3)

2025.10.08 21:30:30 Wednesday

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あなたの睡眠はどのタイプ? 脳に刻まれた眠り方のクセ

あなたの睡眠はどのタイプ? 脳に刻まれた眠り方のクセ
あなたの睡眠はどのタイプ? 脳に刻まれた眠り方のクセ / Credit:Canva

この研究チームは、若者の脳と睡眠を大規模に調べた研究プロジェクト『ヒトコネクトーム計画(HCP)』のデータを利用しています。

HCPというのは簡単に言えば、「人間の脳のしくみ」を詳しく調べるための大掛かりなプロジェクトです。

この計画では、睡眠障害を抱えていない、健康な若い成人770人に、睡眠習慣を細かく質問したアンケートを実施しました。

具体的には、「寝付きの良さ」や「睡眠時間」、「夜中に目が覚める回数」など、さまざまな睡眠に関する情報を聞き取りました。

また、この770人は、睡眠以外にも認知テスト(集中力や記憶力を測るテスト)や心理状態をチェックするアンケート、さらには生活習慣についても詳しく質問されています。

こうして睡眠のことだけでなく、心や体、頭の働き方、日々の生活スタイルまで、幅広い情報が集まったわけです。

さらに面白いのは、このうち多くの参加者(解析対象は723名)については、fMRI(機能的MRI:脳の活動を映像化する方法)という最新の技術を使って、脳の活動状態まで詳しく記録した点です。

MRIというと「病院で脳や体の写真を撮る装置」と思う人もいるかもしれませんが、fMRIでは脳が働いている時の活動をリアルタイムで見ることができます。

まさに脳の動きを撮影する「脳の動画撮影」みたいな技術なんです。

さて、研究チームは、こうして集めた膨大なデータをどう扱ったかというと、ちょっと特別な方法で解析をしました。

通常の研究では、一つの要素を取り上げてそれが睡眠にどんな影響を与えるかを調べますが、今回の研究ではあえて逆をやっています。

つまり、「睡眠についての情報」と「心身の健康状態・認知能力・生活習慣など」のデータを全部ひっくるめて同時に分析し、「睡眠のパターン(タイプ)」を見つけようと試みたわけです。

その結果、たとえ睡眠に問題がない人々であっても、その睡眠は大きく5つのタイプに分けられる可能性があることが分かりました。

1つ目のタイプは、典型的な「睡眠が不調なタイプ」です。

このタイプは眠りへの満足感が低く、寝付くまでに時間がかかり、夜中に何度も目が覚めるといった、いわゆる不眠症に近い症状が出ていました。

予想通り、このタイプの人はストレスや不安感、気分の落ち込みなど、心理的にも問題を抱えている傾向が強かったのです。

脳深部の領域(サブコルチカル領域)と、 体を動かしたり感覚を処理する部分(体性感覚運動ネットワーク)、そして外の世界に注意を向けるネットワーク(背側注意ネットワーク)との間で“つながり”が強くなる傾向が示されています。

一方で、自己を振り返る・思考を内側に向けるネットワーク(TPN=テンポロパリエタルネットワークなど)とはつながりが弱くなる傾向も見られました。

2つ目のタイプは、「睡眠レジリエンス(回復力)」タイプと名付けられました。

このタイプの人は、実は心理的にはかなりストレスを感じたり、注意力の低下などメンタル面で問題を抱えているのですが、なぜか睡眠だけは良好な状態を保っているという面白い特徴があります。

簡単に言えば、「心がしんどくても睡眠は意外と平気」という眠りの強さを持ったグループです。

睡眠不良タイプ(LC1)ではメンタル不調が睡眠にも悪影響を及ぼしていましたが、このレジリエンスタイプ(LC2)では睡眠がある程度守られていることが明らかになったのです。

まさに「睡眠の体質」の違いともいえるでしょう。

ただ脳には明白な変化がみられ、外に注意を向けるネットワーク(背側注意ネットワーク)と、思考や行動をコントロールするネットワーク(制御ネットワーク=認知制御系)との結びつきが強まる傾向がありました。

その一方で、背側注意ネットワークと自己思考系・感情系ネットワーク(TPN、辺縁系など)とのつながりは弱くなる傾向がありました。

残りの3つのタイプは、さらに個別的な特徴を示していました。

まず3つ目は「睡眠薬を常用するタイプ」です。

このタイプの人は眠れないことが多いために睡眠薬をよく使用しています。

意外なことに、このグループでは日中の眠気や注意力の低下はあまり見られず、記憶テストや感情を読み取るテストでの成績が少し低めでした。

さらに対人関係への満足度が比較的高いという、不思議な特徴を示していました。

これらの人々の脳では見た情報を処理するネットワーク(視覚ネットワーク)**や、自分の考え・記憶・内的活動を司るネットワーク(デフォルトモードネットワーク)内では、部位どうしの“つながり”が強くなる方向の変化が観察されました。

また、他のネットワークとの混ざり合いが少なくなりやすい(分離傾向)、つまり外部とのつながりが相対的に弱まる特徴も示されました。

4つ目は「短時間睡眠タイプ」で、毎晩6〜7時間未満しか眠らない人たちです。

睡眠時間が短い影響が明確に出ており、認知力テストの正答率が低く、回答にかかる反応時間も長めでした。

また、攻撃的な傾向があり、協調性も低いという性格的な特徴もありました。

このタイプの場合は複数のネットワークが、“つながりが強くなる部分”も“弱くなる部分”も混在するような変化を示しており、あちこちで再編成が起きている様子がみられました。

特に体性感覚運動ネットワーク(体を動かしたり感じたりする部分)では、“内部と外部とのバランス”が変動しており、ネットワークの統合と分離(複数の部位がまとまるか、逆に独立性を保つか)が変動している傾向がありました。

これは睡眠不足の影響を反映している可能性があります。

最後の5つ目のタイプは、「睡眠が分断されるタイプ」です。

睡眠が何度も中断されることが特徴で、夜中に目が覚めたり、トイレに立つ回数が多い人、いびきや呼吸の乱れで目覚めやすい人が含まれます。

認知テストでもあまり良い結果が出ておらず、不安感や思考の混乱、さらにはアルコールやタバコの摂取量が多いなど、さまざまな問題を同時に抱えやすいことが分かっています。

このタイプの脳は体性感覚運動ネットワーク、背側注意ネットワーク、腹側注意ネットワークなど、それぞれのネットワーク内部での結びつき(内部結合)が弱まる傾向がありました。

研究者は、これらの脳のネットワークの違いが「睡眠の問題に対する脆弱性や耐性」を示している可能性があると考えています。

言い換えるなら、「同じようなストレスを抱えていても、眠れなくなる人と平気な人の違い」は、脳のつながり方に秘密があるのかもしれない、ということです。

今回の研究で見えてきた5種類の分類は一見すると睡眠障害の分類のように見えますが、参加者は全て健康であることが重要なポイントです。

つまり健康な人であっても、1人1人が睡眠の位置に座標を持っており、この5分類のいずれかの傾向に寄るということを意味します。

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