人間アバター実験成功――脳からの命令で「他人の手」を動かし手触りを感じる
人間アバター実験成功――脳からの命令で「他人の手」を動かし手触りを感じる / Credit:Cortically Interfaced Human Avatar Enables Remote Volitional Grasp and Shared Discriminative Touch
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人間アバター実験成功――脳の命令で「他人の手」を動かし物の手触りを感じる (3/3)

2025.10.15 18:00:31 Wednesday

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人間同士が「身体をシェアする」時代は来るのか?

人間アバター実験成功――脳からの命令で「他人の手」を動かし手触りを感じる
人間アバター実験成功――脳からの命令で「他人の手」を動かし手触りを感じる / Credit:川勝康弘

今回の実験により「自分ので他人の手を動かし、他人の手で触った感覚を自分の脳でリアルに感じ取れる」ことに成功しました。

これは単なる技術的な成功にとどまらず、脳や神経が損傷したことで失われてしまった運動や感覚の機能を、人間同士の協力によって補うという、新しい発想を提示した点で非常に画期的だといえます。

実際、これまでの脳と機械をつなぐ技術(BCI)では、「失われた手足を機械で代替する」という方向性が主流でした。

つまり、自分の意思を電気信号でロボットや義手に伝えて動かす、というのが一般的な使い方でした。

しかし今回の実験は、一味も二味も違います。

なんと機械ではなく、人間同士が脳の信号を直接やりとりし、お互いに身体機能を補い合うという、これまでにない「新しいリハビリモデル」を示したのです。

研究チームも、この点を非常に重視しています。

彼らは、今回の技術を「協働リハビリ(協力型のリハビリテーション)」と呼び、従来の患者とセラピストの一対一の関係を越えて、患者同士や家族などが互いに身体機能を「シェア(共有)」し合える可能性を提案しています。

例えば、自分の手がうまく動かない人が、家族やセラピストの健康な手を借りてリハビリをすることで、単なる機械との訓練よりも強い動機付けや満足感を得られるかもしれません。

実際に今回の実験でも、男性は「コンピューター相手ではなく、実際の人を手助けすることが大きな喜びだった」と強い満足感を語っています。

さらに興味深いのは、この「人間同士の接続」の仕組みが、将来的にはリハビリだけでなく、離れた場所にいる人々の感覚や動きをリアルタイムで共有する技術として使える可能性があるという点です。

例えば神経信号を接続することで、家族が犬や猫などのペットを撫でると、遠く離れた場所にいても毛のモフモフした感じを、家族と共有できるようになる可能性もあります。

また体の麻痺した患者ができない体験やその感覚を、協力者(人間アバター)を通じて患者に送り届けることができれば、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)の向上にも役立つでしょう。

ただし、これらはまだ構想段階の未来像であり、現時点で実現しているわけではありません。

もちろん、現時点ではまだ技術的に課題が多く、非侵襲的な方法(体に負担の少ない方法)で同じことを行うのは簡単ではありません。

研究チームは、将来的に脳を直接手術しなくても似た効果を得られる方法を探していると述べていますが、これは今後の開発目標であり、実現した事実ではありません。

しかし、少なくとも今回の実験は、そうした未来を描くための貴重な第一歩になったと評価されています。

また、研究チームは今回の結果を踏まえて、「触覚の再現」の精度をさらに向上させるために、センサーの精密化や刺激方法のさらなる改善を検討しています。

具体的には、物体の硬さを計測するセンサーをもっと薄くして指先にフィットさせたり、脳への刺激をさらに微細に制御できる仕組みを研究中だそうです。

こうした改良が進めば、他人の手を借りたときの触覚体験がより自然でリアルなものになり、リハビリや遠隔共有の可能性がさらに広がると考えられています。

もちろん、今回の研究にはいくつかの限界や制約もあります。

まず、被験者がまだ非常に少ないという点です。

実際に実験に参加したのは、脳に電極を埋め込んだ男性1人と、協力した健常者が1人、そしてリハビリ実験で協力した患者がもう1人の計3人だけでした。

そのため、この技術が本当に多くの人に同じように有効で安全かを確認するためには、さらに多くの人を対象にした検証が必要です。

また、今回の装置は脳内に電極を直接埋め込むという「侵襲的(体への負担が比較的大きい)」な手法を用いています。

つまり、健康な人や症状が軽い人が気軽に使えるようになるには、体に負担が少ない非侵襲的な技術(脳に傷をつけない技術)の開発が必要になります。

研究チーム自身も、将来的にこのような安全性を高めた方法を実現したいと考えています。

それでも今回の発見が示した可能性は、とても大きな意義を持っています。

なぜなら、これまでの「脳と機械をつなぐ」という枠を超えて、「人間同士が直接つながって機能を補完しあう」という全く新しいアイデアを具体的な形で示したからです。

つまり、今回の研究は脳や神経の損傷で失われてしまった機能を、誰か他の人の機能で補える可能性を提示したわけです。

これは、いわば科学の分野での「助け合い」の新しいカタチを切り開いたとも言えるでしょう。

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人間アバター実験成功――脳の命令で「他人の手」を動かし物の手触りを感じる (3/3)のコメント

まーふ

将来的には、他人によるリハビリの力を借りて、本来の麻痺していた自分の体の部分を動かせるようになるのであれば、物凄い進歩だし、多くの人に希望を与える技術になりますね。

ゲスト

二人で一つ、アニメなんかのネタに使えそうなやつですね。
体の一部が動かない人への口説き文句、「私が君の〇〇になろう」がリアルにできるようになるかも知れないわけですね。

ゲスト

Brain to Brainの接続ができるのであれば、四肢が麻痺した人の脳と手足の神経を電極で接続できるように応用して、麻痺した四肢を動かせるようにして貰った方が良いと思うのですが、難しいんでしょうね

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