数カ月で死ぬ「超速老化魚」を使った研究
まず、なぜ「ストレスで肌が若返る」などという現象を探ろうとしたのでしょうか。
実は、私たちの肌の一番奥深くには、「表皮幹細胞(ひょうひかんさいぼう)」と呼ばれる“肌を作るもと”となる細胞が存在しています。
この幹細胞は、けがをしても新しい細胞を生み出して修復したり、日々の新陳代謝で皮膚を入れ替えたりと、とても重要な働きを担っています。
ところが、年を取るとこの幹細胞のパワーが弱まり、皮膚の回復力や若々しさが失われていきます。
これが肌のたるみやしわ、傷が治りにくくなる原因の一つなのです。
「どうすれば幹細胞の“若さ”を保てるのか?」
その答えを探るためには、皮膚がどんなふうに老化していくのかを分子レベルで詳しく調べる必要があります。
しかし、従来の老化研究は、実験動物(マウスやゼブラフィッシュなど)が何年も生きるため、結果が出るまでに非常に長い時間がかかってしまうという大きな課題がありました。
また、人の肌で起きている分子の変化を、他の動物でそのまま再現・解析するのも難しかったのです。
そこで研究チームが注目したのが「ターコイズキリフィッシュ」という超短命魚です。

この魚はアフリカの乾燥地帯にすむ体長4cmほどの小さな淡水魚で、なんと生後1カ月で大人になり、その2〜3カ月後には老化して一生を終えます。
つまり、この魚を使えば、たった数カ月で“老化”が一気に進み、短期間で老化現象を観察できるのです。
しかも、キリフィッシュは人間と同じ「脊椎動物」に分類されていて、神経や臓器の老化現象もヒトと似ていることがわかっています。
チームは、7年かけてこの「謎の超短命魚」を老化研究のモデル動物として育て上げ、最新の分子解析技術をキリフィッシュに適用できるようにしました。
このおかげで、「肌の老化がどんなふうに進むのか」「幹細胞がどのように老いるのか」を、世界でも類を見ないスピードで詳しく解明できるようになったのです。