カーボンナノチューブを織り込んだ「最強防弾布」はケブラーの3倍の強度
カーボンナノチューブを織り込んだ「最強防弾布」はケブラーの3倍の強度 / Credit:Canva
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カーボンナノチューブを織り込んだ「最強防弾布」はケブラーの3倍の強度 (2/3)

2025.11.03 21:00:07 Monday

前ページこれまでの防弾服は繊維の力を発揮できていなかった

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1.8㎜の薄さで弾丸を止める最強防弾布

カーボンナノチューブで織った『最薄防護服』誕生
カーボンナノチューブで織った『最薄防護服』誕生 / Credit:Aramid fibers with dynamic strength up to 10 GPa and dynamic toughness up to 700 MJ m−3

どうすればカーボンナノチューブの向きを揃えられるのか?

そもそもカーボンナノチューブとは、炭素原子がハチの巣のようにつながって筒状になった、非常に細いチューブ状の素材です。

理論的にはとても強靭ですが、そのまま使うには大きな問題がありました。

チューブが長くなるほど、まるでイヤホンのコードがカバンの中で絡まるように、束になって絡まりやすくなるからです。

これを無理やり繊維に混ぜると、強度は均一に出せず、期待通りの性能が出ません。

そこで研究チームは、2つの工夫を考えました。

まず1つ目は、「カーボンナノチューブの束をほぐしてあげること」です。

これはチューブの表面にわずかに化学的な処理をして、一本一本をばらばらにしてやります。

この段階で絡まったナノチューブは少しずつ分離し、均一に分散しやすくなります。

2つ目の工夫は、「混ぜる相手の繊維の柔軟性を高めること」です。

防弾チョッキなどに使われるアラミド繊維は、丈夫で硬い反面、その分子が曲がりにくくて伸ばすのが難しいという弱点があります。

そこで研究チームはアラミド繊維の分子構造を少し変えて、曲げやすくする工夫を施しました。

この柔らかくした繊維の中に、先ほどのナノチューブを均一に混ぜると、相性が良くなり、両者はよく馴染みます。

さらに、この混ざった繊維を「段階的に引き伸ばす」ことで、繊維内部の構造を劇的に改善させました。

最初は常温で軽く伸ばし、次に約300℃という高温でしっかりと引き伸ばします。

温度を高めると分子は動きやすくなり、その結果、ナノチューブとアラミド繊維がまっすぐ整って綺麗に並ぶのです。

繊維の内部にあった余分な隙間(空孔)も、この工程で圧縮されて減っていきます。

イメージとしては、「混み合った電車内で乗客が詰め合って隙間なく整列するような感じ」です。

この2段階の延伸加工のおかげで、繊維内の分子同士がぴったりと接触し、衝撃が加わったときも滑らず、一斉に踏ん張れる構造が完成しました。

こうして仕上げられた繊維を実際に引っ張って試したところ、これまでの繊維にはない驚きの性能が確認されました。

測定された「動的強度(急な衝撃に耐える力)」は約10.3ギガパスカル(GPa)、「動的靭性(壊れるまで耐えるエネルギー)」は約706メガジュール毎立方メートル(MJ/m³)という記録的な数値を達成したのです。

比較として既存のケブラー繊維(Kevlar® KM2)は動的強度は約4.04 GPaであることを考えるとその強さがわかるでしょう。

この動的靭性という数値は、分かりやすく言えば、「衝撃で破壊されるまでにどれだけエネルギーを吸収して踏ん張れるか」を示しますが、706 MJ/m³という値は従来の繊維を大幅に超えた驚異的な数字です。

研究チームはさらに、この繊維を実際の布にして、破片の衝突に対する性能を試す実験も行いました。

ここで用いられたのは、重さが約1.1グラムの標準的な金属片です。

これを専用の装置から秒速約300メートルで発射して、繊維の布に衝突させました。

すると、この薄さ0.6ミリの布1枚だけで弾片の速度を約220メートルまで減速でき、3枚重ね(合計1.8ミリ)の布では弾片をほぼ停止させる結果が得られたと発表されています。

同じ条件でケブラーを使った場合、約4ミリの厚さが必要とされており、今回の新素材がいかに高い防護力を示したかが分かります。

さらに、この新しい布は織物としての柔軟性も保たれており、体の動きを邪魔せず着心地の良い防護服への応用が期待されています。

次ページ未来の防護服のスタンダードになるか?

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