300年の法則が崩れたもうひとつの理由

研究チームをさらに驚かせたのは、板同士の距離を変えたときの挙動です。
板と板を近づけると、磁石同士が引き合う力が強まり、上の板が下の板にぐっと押しつけられる形になります。
そしてアモントンの法則は「摩擦力とすべり接触面に加えられた垂直荷重(押さえつけの力)との間に、単調な関係がある」と述べています。
ですから板を近づけるほど――つまり押しつけの力が強くなるほど――摩擦も単調に増えていくはずです。
ところが結果は違いました。
板を大きく離したときも、ぐっと近づけたときも、どちらも摩擦は弱い。
そして両者のちょうど中間――実験では約9ミリメートル付近――でだけ、摩擦は急峻なピークを描いたのです。
グラフは、山なりの曲線になりました。
研究者もこの点について、アモントン則からの「明確な逸脱(clear deviation)」だと結論しています。
ではなぜ中間距離で最大になるのか。
それは、先ほどの2つのしがらみの強さがちょうどこの距離で綱引きのように引き合うからです。
板が近いときは下の磁石の影響が圧倒的に強く、コマたちは素直に下とそろえて一糸乱れず進んでいく。
遠いときは下の影響が弱まり、コマ同士は隣との関係だけを気にして静かに落ち着いてしまう。
どちらの場合もコマたちはあまり迷わず、エネルギーはほとんど失われません。 ところが中間距離では「下とそろえたい」と「隣とそろえたい」の両方が同じくらいの強さで引っ張り合い、コマたちは決断できないまま向きを切り替え続ける羽目になる。
いちばん多くのエネルギーが熱に変わるのは、この板ばさみの距離なのです。
これは要するに、距離を変えるだけで効きを調節できる、減らないブレーキを作れる、ということを意味します。
このようなブレーキは磁石どうしが触れていないので、磁石のあいだでは、いくら動かしても部品がすり減ることはありません。
また効き具合を遠隔から調節できる道もひらけます。 研究チームも、この性質がナノサイズの精密機械や磁気軸受、振動吸収装置など、幅広い応用先を見込めると述べています。
アモントンの法則は、物と物が触れ合う日常の世界ではいまも正しいままです。
ただ、触れ合わない磁石たちの世界では、それとはまったく別のルールが静かに働いていたのです。



























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