核膜を壊しながら、核の中で粒子を作る
細胞核は、真核生物の細胞においてDNAを収める重要な場所です。
ヒトを含む真核生物の細胞では、核膜が細胞核を包み、遺伝情報を守る区画として働いています。
ところがフルティヴォウイルスは、この核膜との関わり方が非常に独特でした。

電子顕微鏡による観察の結果、アメーバへの感染初期には、細胞質(細胞の中で、細胞核以外の部分を満たしている領域)に空のカプシド(※)が現れ、その後、宿主細胞の核膜が崩壊していく様子が確認されました。
※ カプシドとは、ウイルスの遺伝情報を包むタンパク質の殻のこと。
さらに感染が進むと、そのカプシドが細胞核の内部、つまり核質へ移動し、そこでウイルスDNAがカプシド内に詰め込まれていきました。
つまりフルティヴォウイルスは、宿主の核膜を崩しながら、空のカプシドを核質へ移行させ、そこでカプシドにウイルスDNAを詰め込んでウイルス粒子を完成させるという、これまで知られていなかった複製様式を持っていたのです。
これは、同じ巨大ウイルスであるメドゥーサウイルスやウシクウイルスとも異なります(下図を参照)。

メドゥーサウイルスは宿主の核膜を壊さずに保ったまま増殖。
ウシクウイルスは宿主の核膜を破壊したあと、細胞質側にウイルス工場を形成し増殖。
これらに対して、フルティヴォウイルスは、核膜を崩壊させたうえで、(細胞質側にウイルス工場を作るのではなく)、宿主の細胞核の内部にある核質にカプシドが移動し、そこにウイルスDNAを詰め込み、ウイルス粒子を完成させるという独自の方法をとっていました。
近縁な巨大ウイルスであっても、細胞核の使い方がここまで異なるという点は、チームにとっても予想外の発見でした。
さらに比較ゲノム解析では、フルティヴォウイルス、クランデスティノウイルス、ウシクウイルス、ウサルパティウイルスの4種が明確な単系統群を形成することが示されました。
チームは、この4種からなる新しい科を「マネスウイルス科」と命名しました。
また、このマネスウイルス科は、既知の巨大ウイルスであるマモノウイルス科の姉妹群として位置づけられました。
そのためチームは、従来想定されていたパンドラウイルス目ではなく、マネスウイルス科とマモノウイルス科を統合する新しい「目」を創設することを提唱しています。

なお、フルティヴォウイルスは淡水中のアメーバに感染するウイルスとして見つかったものであり、現時点で人間に感染したり、病気を引き起こしたりすることを示す報告はありません。
今回の研究は、感染症リスクというより、巨大ウイルスと細胞核の関係を探る基礎研究として位置づけられます。
今回見つかったフルティヴォウイルスは、宿主の核膜を壊しながら、核の内部を利用してウイルス粒子を作るという不思議な性質を持っていました。
このようなウイルスを比較していくことで、巨大ウイルスが細胞核とどのように関わり、真核生物の進化とどのように結びついてきたのかが、少しずつ見えてくる可能性があります。
鎌倉の小さな川から見つかった「こっそり者」の巨大ウイルスは、私たちの細胞核の起源を考えるための、大きな手がかりになるかもしれません。



















































