ブタの網膜は死後10時間経過しても光に反応する

この装置を使い、チームはまず、人間の眼球と構造がよく似ているブタの眼球で実験を行いました。
24時間保存するブタの眼球を二つに分け、一方には灌流液を流し込み、もう一方にはなにもせずそのまま置きました。
この灌流液は体液に近い成分を持つ塩類溶液に酸素を溶かしただけ——いわば「酸素入りの塩水」です。
24時間後の状態を比べると、灌流液を流した眼球は網膜の構造がきれいに保たれ、細胞の生存率も高いままだったのに対し、なにもしなかった眼球は組織がはっきりと劣化していました。
「冷やして保存する」だけでは24時間で崩れてしまう網膜が、「流し続ける」ことで保てることがわかったのです。
これだけでも十分な成果ですが、チームはさらに踏み込みます。
保存された網膜は、果たしてまだ「光に反応する力」を持っているのか?
これを確かめるため、チームは36個のブタ眼球に灌流液を流し込みながら、光を当てたときに網膜が発する微弱な電気信号(網膜電図/ERG)を測定しました。
健康な目に光を当てれば特有の波形が現れる——これは眼科で日常的に使われている検査と同じ原理です。
結果、36個のうち15個の眼球(約4割)で、生きた動物と同じように、網膜の信号(ERG)に特徴的な波形が繰り返し現れました。
そしてその反応は、3つの眼で死後10時間、そのうち1つの眼では12時間まで続いたのです(施設の利用時間の都合で測定を打ち切ったケースも含まれており、さらに長く続いた可能性もあります)。
この結果は、酸素を含んだ灌流液を送り込み続けることで、網膜の働きを予想以上に保てることを示しています。
しかし、この研究のクライマックスはここではありません。
チームは、さらに決定的な追加実験を行っています。
光への反応が安定して出ている最中に、チームは灌流液の供給をあえて止めてみたのです。
すると信号はゆっくりと弱まり、やがて消えました。
ここまでは予想どおりです。
ところが、再び流し始めると——消えたはずの信号が、もう一度立ち上がったのです。
この「スイッチのON/OFF」のような現象が、3つの眼球で繰り返し確認されました。
この結果は、3つの眼という少数ながら、光反応の回復が灌流の有無ときれいに対応しており、反応が灌流に依存していることを強く示しています。
実は臨床の世界でも、今回の実験に似た現象は知られています。
一過性黒内障と呼ばれる症状では、網膜への血流が一時的に途絶えると突然視界が暗くなり、血流が戻ると視力も回復します。
体の中で起きるこの「血流と視覚の明滅」という結果と重なるものがあると言えるでしょう。




























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