「2つの種」は5億年以上受け継がれてきた

研究チームはさらに、ほかの動物にも同じ仕組みがあるかを調べました。
すると、サル(カニクイザル)やニワトリ、ゼブラフィッシュの胚でも、前側の種と後ろ側の種が、互いに重ならない別々のグループとして現れていました。
同じ二分は、ギボシムシの胚にも見られました。
ギボシムシは、海底の砂や泥に穴を掘ってすむ、ミミズのような細長い海の動物です。
背骨は持ちませんが、分類上は私たちを含む脊索動物に比較的近い「半索動物」の仲間です。
ギボシムシと私たちの共通祖先は、約5億5000万~6億年前に生きていたと考えられています。
そのため研究者たちは、脳の前側と後ろ側のもとになる「2種類の種」を作り分ける仕組みが、その時代にまでさかのぼると考えました。
研究を率いたカイル・ロー氏は「私たちの研究は、進化がもともと存在していた2つの神経系を、空間的に寄せ集めたことを示唆しています。脳を1つの器官として持つほうがおそらく効率的でしょうが、私たちは脳を2つの別々のパーツとして作るという原始的なやり方に頼っているのです」と語っています。
では、なぜこの遠回りな作り方が残ったのでしょうか。
ロー氏は推測だと断ったうえで、複数の元から器官を作れば部品に分かれ、一方をいじってももう一方には影響しないと説明します。
進化は、呼吸や空腹を司る後ろ側の回路を壊す心配をせずに、前側だけを作り替えることができたというのです。
その試行錯誤の中から、記憶や創造性といった高度な働きが生まれた可能性があると、ロー氏は考えています。
また今回の発見は実験室での脳細胞づくりも大きく前進させると期待されます。
実はこれまでの研究では、後脳の神経細胞の中に、なかなか作れないタイプが残されていました。
そこで研究チームは、最初から後ろ側のグループを出発点にするという戦略をとることにしました。
結果、そのもくろみは成功し、後ろ側の種から、飲み込みなどに関わる後脳の運動神経の細胞を作ることができました。
この成果は、医療にも新しい道を開きます。
脊髄性筋萎縮症(SMA)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、後脳や脊髄の運動神経の細胞が衰え、飲み込む力や呼吸する力が弱っていきます。
後脳の神経細胞を実験室で作れるようになったことで、病気の中で何が起きているのかを、シャーレの上で直接調べられるようになります。
また後脳は呼吸や睡眠、食事といった生命に関わる働きを担っているため、後脳が関わるほかの命に関わる病気の研究にも役立つと期待されています。
研究チームは次に、脊髄の生まれ方をさらに詳しく突き止めるとともに、SMAやALSが後脳の神経細胞をどのように壊していくのかを明らかにしたいとしています。





























