置き忘れた培養皿に現れた「生き残り」の正体とは?
手がかりは、ちょっとした偶然からもたらされました。
薬が効くかを調べる実験で、ある研究者が、決められた時間より長く菌の皿を培養したままにしてしまったのです。
戻ってみると、その延びた時間のあいだに、予想外に菌が育っていました。
そこでチームは、菌の大多数が育たなくなる濃度の256倍という、とても濃い薬の上で菌を育ててみました。
すると、1万個に1個にも満たない、ごくわずかな細胞が生き残りました。
同じ菌の集団の中に、薬にとても強い少数の細胞が混じっていたのです(ヘテロ耐性)。
培養を144時間、つまり6日間まで延ばすと、皿の上に2種類のコロニー(菌の集まり)が現れました。
ゆっくり育つ「小さなコロニー」と、速く育つ「大きなコロニー」です。
ギフォード博士らは、菌が複数の作戦をとって生き残る見込みを高めるこのやり方を「両賭け」と呼んでいます。
どちらのコロニーも、元の菌より薬が効きにくくなっていました。
欧州で新しく定められた基準に照らすと、2種類のコロニーも、もとの菌も、どれも「耐性あり」と判定される効きにくさでした。
「効く」かどうかの判定は、どの基準を使うかでも変わってしまうのです。
そして細胞を調べると、ゲノム一式を4セット以上も抱え込んでいたのです(4倍体以上)。
設計図の束を丸ごとコピーして、何組も手元に並べたような状態です。
博士によると、これは他の真菌では知られた手口ですが、カンジダ・アウリスではあまり知られていませんでした。
大きなコロニーには、もう一つ目立つ特徴がありました。
ストレスに耐える仕組みに関わる遺伝子(CRZ1、通称「クレイジー・ワン」)に、変異が多く見つかったのです。
大きなコロニーでは、17株中14株にこの遺伝子の変異がありました。
これは全株に共通する1つの変異を除いた数で、同じ数え方では元の菌は7株中0株、小さなコロニーは18株中2株でした。
変異の多くは、遺伝子の働きを止めてしまうと考えられるタイプのものでした。
そしてこの変異は、薬の効きにくさがさらに増すことと結びついていました。
実はこれは、ほかのカンジダとは逆の結果です。
カンジダ・アルビカンスなどの仲間では、この遺伝子が壊れると、むしろ薬が効きやすくなります。
一方カンジダ・アウリスでは、この遺伝子を壊した菌が薬に強いという報告が最近あり、今回の結果もそれと一致しました。




