薬に合わせて、細胞の壁まで作り替えていた
では、薬にさらされた菌の体では、ほかに何が起きていたのでしょうか。
この薬は、細胞壁の材料の一つを作れなくする働きを持っています。
チームが電子顕微鏡でのぞくと、大小どちらのコロニーでも、細胞壁の内側の層がはっきり厚くなっていました。
この内側の層は、エビやカニの殻にも含まれるキチンという成分が多い部分です。
細胞を染めて調べても、薬にさらされるとキチンの量が増えていました。
一方で外側の層の変化はわずかで、変化はおもに内側に集中していました。
カンジダ・アルビカンスでも、この薬で材料の一つが作れなくなると、キチンを増やして壁を補うことが知られています。
ただし、細胞壁の糖を成分ごとに測る分析では、キチンなどが増えて薬が狙う材料(グルカン)が減るという変化は、大きなコロニーでは見られませんでした。
これらをまとめて、チームは菌が段階を踏んで薬に慣れていくという見方を示しています。
ゲノムの不安定化、ストレスに耐える仕組みの変化、細胞壁の作り替えが積み重なり、本格的な耐性への道を開くというのです。
ゲノムを丸ごと増やすことは、真菌によく見られ、元に戻すこともできるストレス反応だと考えられています。
コピーが多いほど、生き残りに役立つ変異が手に入りやすくなるとも考えられています。
論文は、薬によるゲノムの増加が、菌が治療をすり抜ける後押しをしていることを強く示唆するとしています。
ただし今回の菌は2人の患者から採れたもので、生き残りの様子は実験室の皿の上で確かめたものです。
同じ変化が患者の体内でどこまで起きていたのかは、今回の結果だけでは言い切れません。
共同筆頭著者のマーフィー博士は、新しい治療法や、病院からこの菌を根絶する方法を探る必要があると述べています。
英国では最近この菌の患者が再び増え、届け出が必要な病原体に加えられました。
2025年には、国全体で対応する公衆衛生上の事案だと宣言されています。
検査で「効く」と判定された菌の中にも、1万個に1個に満たない「隠れた生き残り」が潜んでいました。
研究者がうっかり培養を長引かせていなければ、設計図を何組も抱えたこの生き残りは、見過ごされていたかもしれません。
冷蔵庫の奥の作り置きも何かを生き延びさせているかもしれませんが、こちらは発見せずに捨てるのがおすすめです。
ここからは、カンジダ・アウリスをもっと知りたい人へ
カンジダ・アウリスとは、日本で最初に見つかった、人に病気を起こす酵母の仲間です

カンジダ・アウリスは人に病気を起こす酵母の仲間で、実は日本で最初に見つかりました。
最初の菌は2005年に東京で、70歳の女性の耳だれから取り出されました。
見つけた帝京大学の槇村教授は、最初「だらしない“顔”をしていて、病原性があるとは思えない」と感じたそうです。
実際、日本で見つかっているのは、主に薬が効きやすく、体の奥まで入り込まないタイプです。
ところが2009年にインドなどでこの菌が血液から見つかると、死亡例が出て、感染は一気に広がりました。今では、真菌の病気として初めて世界的な流行を起こしています。
海外で広がっているのは日本とは別の系統で、複数の国の菌を調べた研究では、4割ほどが2系統以上の抗真菌薬に耐性を持っていました。
日本でも、海外の系統の菌による血液感染で亡くなった例が、初めて報告されています。
こうした中で帝京大学のグループは、1時間以内に結果が出て、1検体1000円ほどで調べられる遺伝子検査を開発しています。




