ビールと冷蔵庫を「温度をそろえる機械」として考える
物が周りと差し引きで熱をやりとりしなくなった状態を「熱平衡」と呼び、冷蔵庫の中のビールもいずれこの状態に落ち着きます。
この過程はいくらでも速くはできないのではないか、という疑いは以前からありました。
実験やコンピューターでの計算、数式による解析から、それをうかがわせる手がかりが出ていたのです。
しかし、どんな物やどんな装置にも当てはまる形で、その限界を導いた人はいませんでした。
そこで研究チームは、物を決まった温度の熱平衡へ運ぶ装置を、数学の言葉で「熱平衡化マシン」と定義しました。
冷蔵庫ややかんがマシンで、ビールや水がマシンにかけられる側の物、というイメージです。

ただし、ここには一つ落とし穴があります。
相手が特定の1杯だけなら、熱いコーヒーを、はじめから冷えているコーヒーとさっと入れ替える「機械」も考えられるのです。
これでは一瞬で冷えたことになり、限界の話が成り立ちません。
チームの一人でジュネーブ大学のパヴェル・セカツキさんは、こうしたやり方を「反則」だと話しています。
そこでチームは、砂糖やミルクの量が少し違うコーヒーでも、同じマシンが同じ手順で冷やせることを条件にしました。

物理の言葉では、物がとれるエネルギーを表す式(ハミルトニアン)が少し違う物も、まとめて熱平衡にできることです。
これで、特定の1杯に合わせた入れ替えの手は使えなくなります。
その一方で、マシンの大きさや、物とつながる強さには、いっさい制限を付けていません。
周りの環境もすべてマシンの一部とみなし、量子力学で許されることなら何をしてもよい、という広い前提です。
バルセロナ自治大学のマルティ・ペラルナウ=リョベさんも、「マシンへの制約は実はとても弱いものです」と話しています。




