・研究者のドロップアウト率がここ50年間で急激に増加している
・正式な常勤職を得られないことが一因であり、1960年と2010年の間では非常勤者の数が35%も高まっている
・毎年増えている博士号取得者の数は、終身在職者に比べてはるかに多いため、常勤職のポストが限られている
日本でも深刻な「ポスドク(ポストドクター)問題」。現在の研究分野では、博士号(ドクター)を取得しても正式な常勤職が得られず、研究の道を諦める人が絶えません。
IU校(インディアナ・ユニバーシティ・ブルーミントン)の調査によると、学術研究者のドロップアウト率はここ50年間で急激に増加していることが分かりました。
その証拠に、学術機関で研究者としてキャリアを開始させた人のおよそ半分が、その5年後には専門の分野から身を引く傾向にあります。これは1960年代とは大きく異なっており、当時の研究者の半分は生涯のキャリアを専門の研究者として終え、さらにドロップアウトするにしても平均して35年間はキャリアを継続させていました。
このようなドロップアウト率の上昇は、一体何が原因となっているのでしょうか。詳細な調査データは12月11日付けでProceedings of the National Academy of Sciencesに掲載されています。
https://www.pnas.org/content/115/50/12616
IU校の調査は、学術機関に携わるおよそ10万人以上の研究者を50年間にわたり追跡したものです。その内訳は、天文学が7万人、生態学が2万人、そしてロボット工学が1万7千人となっています。
その統計データを分析してみると、大学に常勤職として勤めるのではなく、主任研究員の補佐やポストドクター(博士号取得者)といった非常勤研究者の割合が急激に増えていることが判明しました。
1960年と2010年との間では、生涯のキャリアを非常勤として終えている人の数が、25%から60%にまで高まっていたのです。調査を行ったIU校のStaša Milojević氏は、この結果について「学問分野の広がりによって、研究者たちの入れ替わりが激しくなったことがひとつの要因だ」と指摘します。
また、分野別のドロップアウト率を比較してみると、最も離脱の割合が高かったのはロボット工学を専門とする研究者でした。これは研究職を退いても、民間の企業で割の良い代替の仕事が得やすいからだと考えられます。
一方、ドロップアウト率が一番低かったのは天文学分野でしたが、これはロボット工学とは反対に、大学外で専門知識を活用できる職が見つけにくいため、そもそも業務に就けないことにあります。
そしてドロップアウト率が増加している根本的な原因は、終身で大学に在職する研究者数と比べて、毎年増える博士号取得者の数がはるかに多いことにあります。上がつかえていることで、主任研究者としてのポストはますます獲得しにくくなるのです。
ポストドクターの間に、教授の補佐として長期的にキャリアを積むことが後の常勤職を得る必要条件となっていますが、研究補佐に就いたからと言って安心できるものではありません。というのも、伝統に忠実な教授陣は、自分と同じ学問分野の専門家を養成する「徒弟モデル」をいまだに行っているのです。
しかしながら、このシステムは、現在の科学研究の間で主流となっている「産業モデル」に相反するものとなっています。「産業モデル」においては、限定された領域の専門知識を有する者を集ってチームを形成します。そのチームの構成員は、各人が異なる知識を持ち寄ることが重要であり、互いに対して代替不可能でなければなりません。
つまり、現代の学術分野では、自分の指導者と同じ知識を育てるよりも、個人のオリジナリティを磨くことが優先されています。研究職の道は、競争率の激しいシビアな世界ですが、自らの抱く疑問を真摯に追求していれば、誰かの目にとまる可能性もあります。99%の努力と忍耐を常に心がけることが、重い扉をこじ開ける鍵となるでしょう。
via: news.iu.edu