■1889年にイギリスで発見された「フォークトン・ドラム」という石器は、ストーンヘンジ建設のための「巻き尺」であった
■「フォークトン・ドラム」の周囲に決められた回数分ひもを巻きつけると「10フィート(3.22m)」の長さが正確に得られる
■「10フィート」は、ストーンヘンジに使用されていた石の長さや円環配列の直径・円周の測定に使用されていた
1889年にイギリスのヨークシャー州の村で発見された3つのドラム型の石。村の名前にちなんで「フォークトン・ドラム」と名づけられたこの石器は、どういう目的で造られたのかまったくわからず、およそ150年ものあいだ考古学者たちの頭を悩ませてきました。
しかし、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL=University College London)とマンチェスター大学の共同研究チームによって、「フォークトン・ドラム」はストーンヘンジの建設に使用されていた「巻き尺」であったことが判明。長年の謎が解明されました。
今回の発見は、新石器時代の人々がすでに高度な幾何学と数学的知識を持っていたことを証明するものとなっています。詳細な研究は、12月15日付けで「British Journal for the History of Mathematics 」に掲載されています。
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.108
「フォークトン・ドラム」は、およそ5000年前の新石器時代に当時のイギリスの農村に暮らしていた人々によって作られました。高さおよそ10cmほどの石灰質の小さな円柱形の石器は、周囲に美しい装飾が施されています。
UCL教授のマイク・パーカー・パーソン氏は「私たちは、この小型ドラムにひもを決まった回数分巻きつけると一定の長さが得られることを発見した」といいます。
その長さは10フィートで、異なる大きさをした3つのドラムのどれでも正確にその長さを割り出すことができるのです。
例えば、1番小さなドラムだと10周、中サイズだと8周、大サイズになると7周分だけひもを巻くと、10フィートぴったりになります。
そしてこの長さは、ストーンヘンジに使われている「まぐさ石」の長さと一致するのです。「まぐさ石」とは、2つの支柱上に水平になるよう架け渡された石のこと。こんな大昔に、びっくりするほどの正確な技術を持っていたんですね。
また他にも、ストーンヘンジを構成する円周や直径を正確に割り出すのにも活用されていると推測されています。
例えば、赤色をしたサーセン・ストーンの円周は300フィート、緑色のオーブリー・ホールの直径は270フィート、そして青色をした土塁の直径は360フィートとなっています。10フィートを基本単位とすると、これらの直径や円周を簡単に割り切ることができ非常に便利です。(下図参照)
また、ストーンヘンジのような大規模な建設を行うには、採石場から石を切り出した石材をスムーズに運んでこなければなりません。
サーセン・ストーンに使われている石の採石場は、建設現場からおよそ260kmも離れているため、無駄な労力を減らすためにも、正確な寸法を切り出すことが重要でした。こういった採石作業にも、ドラムの巻き尺は大変役立っていたことが予想されます。
マンチェスター大学教授のアンドリュー・チェンバレン氏は今回の発見に満足しつつも「3つの石器は子どもを埋葬していた墓から発掘されているため、ストーンヘンジ建設以外の用途もあったのでは」といいます。
「フォークトン・ドラム」は、子どもの身長を測るなど、生活に根付いた用法でも使われていたのかもしれませんね。