■複雑な社会が形成された後で、道徳的な神への信仰が生まれたことが示された
■一般的に、100万人以上の規模の共同体が形成された後で、道徳的な神の概念が生まれる
■共同体の規模が大きくなると「匿名性」が増すため、全知全能の神の監視のもとで社会の秩序が維持される
「わたしは怒りに満ちた懲罰をもって、大いなる復讐を彼らになす。わたしが彼らにあだを返す時、彼らはわたしが主であることを知るようになる—」
旧約聖書に登場する神は、時に怒りに満ちた存在として描かれます。悪者を懲らしめる超自然の力は、キリスト教に限らず多くの現代宗教で中心的な役割を果たしています。では、複雑化した社会と、悪者に罰を与える神は、どちらが先に登場したのでしょうか?
慶應義塾大学の人類学者パトリック・サベジ氏らによる最近の研究で、初めに複雑な社会が形成され、そこに暮らす人々を共通の強い力の下で団結させるために、こうした神々の信仰が始まったことが示されました。
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1043-4
道徳規範と社会の複雑性の相関関係
古代人はしばしば、雷などの自然現象を超自然の力によるものだと考えました。ですが過去数千年の間に、宗教もまた、道徳規範を説明するために超自然の力を利用してきました。たとえば、エジプトの太陽神ラーは、人々の現世での行いに応じて、死後の世界における運命を決める存在でした。
道徳規範の誕生と社会の複雑化の相関関係は、従来の研究でも指摘されてきました。見知らぬ者同士が身を寄せ合って形成された大きな共同体では、人々の協力があってこそ社会の秩序が保たれるため、「超自然の力による裁き」の概念が求められます。ところが、「道徳が先か?複雑な社会が先か?」という謎に対する答えは、諸説存在します。調査地域が限られ、社会の複雑性を評価するための詳細な情報に欠けていたことが、その要因です。