Point
■感染症による高熱は人の細胞の生存率を下げる悪影響があることがわかった
■一方で高熱にはインフルエンザウイルスの増殖を抑制する効果もあり、そのメカニズムは細胞の傷害により「酸性エンドソーム」が減ることによる
■熱に弱い子供や高齢者では、インフルエンザにかかったら解熱が必要
長く議論されてきた「感染症にかかったら熱を下げるべきか、それともそのままにすべきか?」という問題。
発熱するのは細菌やウイルスをやっつけるためだという説があるが、熱が高くなると脳などに悪い影響をもたらすという声もある。
東北大学などの研究チームがこの命題に対し、インフルエンザウイルスと気管の細胞を使って実験を行った。果たして気になる結論は…?
https://www.heliyon.com/article/e01149/
高熱のメリットとデメリット
実験では、人の気道から細胞を取り出し、高熱の状態(39℃、40℃)や平熱の状態(37℃)で培養。すると高熱の状態では細胞の生存率が低くなることがわかった。つまり高熱は人にデメリットがあることが示されたのだ。
一方で、高熱にメリットがあることも示された。細胞にインフルエンザウイルスを感染させて高温で培養すると、インフルエンザウイルスの増殖が減少したのだ。
ではどのようなメカニズムでウイルスが減少するのだろうか?
今回の実験で、高温によって細胞内の「酸性エンドソーム」が減少するためだということが判明した。
人の体に入ったウイルスは、自分がくっついた細胞の膜をグイッと中に押し込んでちぎる。するとウイルスはちぎった細胞膜にくるまれ、風船のような「エンドソーム」の状態で細胞の中に入りこんでしまう。
そしてこの風船「エンドソーム」の中を弱酸性にすることで、ウイルスの情報が細胞に送り込まれるようになるのだ。
しかし高温下ではウイルス感染に必要な「酸性エンドソーム」も減少するため、ウイルス増殖の抑制につながるというメリットがある。
ただしこれも高熱が細胞へ悪影響を及ぼした結果の一つであり、子供や高齢者など高熱により悪影響が出やすい患者ではやはり熱を下げることが必要だ。
健康保険組合のHPでは、38.5℃以上の高熱が出た場合は医療機関の受診が勧められているが、検査で陽性になるまでに時間がかかること、抗インフルエンザ薬の効果が期待できる時期が限られていることに注意が必要だそうだ。また高熱が続いた場合は医師や薬剤師に相談して適切な解熱剤を使う必要があるだろう。
感染症によく効く薬がなかった昔は「とにかく暖かくして汗をかきなさい」と言われた時代もあった。しかし今ではインフルエンザによく効くタミフルやリレンザなど、たくさんの感染症の薬が開発されている。自分の体を守るためには、新しい情報の収集や専門家の適切な判断が大事だ。