Point
■画像はハッブル宇宙望遠鏡により撮影されたM90の画像
■この天体は青方偏移という現象を起こしており、宇宙の大型の天体としては珍しく地球へ向かって接近するように動いている
■画像が階段状に途切れているのは、倍率の異なる4台の光検出器の合成画像のため
この画像は、天の川銀河から6000万光年離れた乙女座銀河団の銀河メシエ90だ。
画像は望遠鏡以外に惑星カメラから集められた赤外線、紫外線、可視光を組み合わせて詳細な画像として再現されている。画像の左上が階段状に途切れた形で生成されているのは、倍率の異なる検出器の画像を位置を調節して組み合わせているためだ。
この画像に映る銀河のスペクトルは、青方偏移を起こしていて、珍しいことに我々の銀河に向かって近づくように移動している。
青方偏移は光のドップラー効果によって起こる現象で、これが観測されるということは、対象の天体が光速に近い速度で地球方向へ近づいている証拠になる。ではこの銀河はいずれ我々の天の川銀河とぶつかってしまうのだろうか?
この映像は、5月24日付けでNASAの公式サイトに掲載されている。
https://www.nasa.gov/image-feature/goddard/2019/hubble-spies-curious-galaxy-moving-a-little-closer
メシエ? ハッブル? 知ってるようで意外と知らない天文学者の偉業
チャールズ・メシエは18世紀のフランスの天文学者だ。
メシエの名前を知らない人でも、「M78星雲」のような天体の名前に「M」のついたナンバーなら聞き覚えがあるだろう。
ウルトラマンの故郷にも使われている、天体名の「M」これこそが「メシエ」のことなのだ。
メシエはもともと熱心な彗星ハンターだったが、当時の天体望遠鏡は倍率がそれほど高くなかった。あるときメシエは、夜空に彗星のように星の光が滲んでいるが移動しない天体があることに気づいた。
そこでメシエは、彗星愛好家の仲間たちが、そんな天体と彗星を間違えて研究時間を無駄に浪費することの無いように、「彗星に似ているが彗星ではない天体」のカタログ編集に乗り出したのだ。
そうして彼が観測してカタログにまとめた天体は現在全部で110点に上り、それぞれに「M」のナンバーが付けられた。「M78星雲」というのはメシエ・カタログの78番目に記録されている天体ということなのだ。
有名なアンドロメダ銀河はM31だ。
ところで、アンドロメダにしろ、ウルトラマンの故郷にしろ、メシエの発見した天体の多くは実は銀河なのだが、なぜか星雲という表現が使われる。アンドロメダも銀河以外に大星雲という呼び方がされているのを聞いたことがあるだろう。
星雲と銀河が混同して使われているのには理由があり、実はメシエの時代には銀河は我々の属する「天の川銀河」以外存在しないとされていた。そのため、銀河のように見える星の滲んだ天体は全て星雲であると言われていたのだ。
これが、現在本当は銀河である天体が、星雲という呼び方もされてしまう原因だ。
エドウィン・ハッブルについては、NASAが宇宙望遠鏡の名前に引用しているため、天文学の歴史をよく知らない人でも名前だけは聞いたことがあるだろう。
近代を代表する天文学者の彼だが、名前は知っていてもどんな偉業を成した人なのかは、意外と知らない人が多い。
実は天文学には二種類あり、ホーキング博士のような物理や数学によって宇宙の構造を予測する論理天文学(論理物理学)と、実際に観測して宇宙の構造を実証する観測天文学がある。ハッブルは観測天文学者だ。
そしてハッブルは、観測によって宇宙が膨張していることを証明した人だ。
宇宙は実は風船のように膨張を続けている。このことは今では有名な事実なので、聞いたことがある人は多いだろう。
これはもともとアインシュタインの重力理論から導き出された事実だったが、そんなことを言われても普通は信じられない。そして物理学という世界は、数学的には証明できても、実際実験や観測で証拠を示さないと、事実としては認めない決まりがある。
そこでハッブルは大気の影響の少ない高い山の上にある天文台で、天井を開いて寒さに震えながら天体観測を行い、宇宙膨張の証拠を集めたのだ。
天体観測というと、なんだかロマンあふれる素敵な印象があるが、本気の天体観測は大気の薄い極寒の高所で行う過酷で根気のいる作業なのだ。