「超個体」としての木
切り株にとってはそれが生存への唯一の道であることは明らかですが、では周囲の木々は一体どんなメリットがあってこの「おじいさん」を生かしているのでしょうか?
レウツィンガー氏は「この木が切り株になる以前に接ぎ木が行われた」という仮説を立てています。このことは、すべての木にとっていくつかの利点をもたらします。
第一に、木と木が結びつくことでよりがっちりと地面に固定されることです。これは、カウリマツが生息する急斜面においては重要です。
第二に、木々が互いに栄養分を共有することで、より均衡の保たれた資源の分配が可能になります。
集団の中で役割を果たしていた1本が、ある日その機能をストップした時、このことに周囲の木々は気づかなかったのかもしれません。もしくは、気づきながらも、その木をサポートしつづけてきた可能性もあります。
この仮説が本当だとしたら、「木は単なる個体を超えた『超個体』として存在しているのではないか? 木の『社会』というものが存在するのではないか?」という興味深い問いが浮上します。
ただし、木々の相互接続性にはマイナス面もあるため、この問いはそう単純ではありません。たとえば、この方法は水や栄養分の不足を集団で乗り切るためには確かに役立ちますが、ある個体が病気になるとただちにそれが蔓延してしまうというデメリットもはらんでいます。
気候変動によって干ばつが深刻化し、その頻度も増す状況の中、この分野の研究はますます求められています。「今回の発見は、木々の生存や森の生態に対する私たちの見方を変えるでしょう」と、レウツィンガー氏は語っています。