Point
■チェスを用いたAIの実験は古くから行われており、今や人間には太刀打ちできないレベルのAIプレイヤーが存在している
■現在最も優れたAIプレイヤーは、大量のプロセッサーを積んで、何時間も掛けて数百万にも及ぶ大量の対戦を実行してルールや攻略法を学んでいる
■今回のAIは、ゲームの解説だけを入力データとして、自然言語処理を利用して自力でゲームのルールを理解し、攻略を学習していく方法を採用している
昔からAI研究者はチェスが大好きです。
古くはアラン・チューリングが1951年に最初のチェスのプログラムを書き、IBM、Googleがこのシステムを進歩させて、今では人間がAIにゲームで勝つことは難しい状況です。
そしてまたもチェスを使ったAI研究の成果が報告されました。
AI研究でコアとなっているのは、いかにして何も知らない機械に物事を学ばせるかという部分です。
今回焦点を当てられたのは、チェスゲームの解説。自然言語処理を用いて大量のゲーム解説を分析し、AIに自力でルールや攻略法を獲得させるという手法がこの研究では採用されています。
こうしたアプローチは、低い計算能力、少ないデータ量でAIの運用を可能とさせ、また人間の感情を含めた未知のパターンを発見できる可能性があります。
この研究は、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの人工知能研究者たちにより発表され、現在はカーネル大学ArXivに掲載されています。
https://arxiv.org/abs/1907.08321
聞いて覚えるAI「SentiMATE」
この深層学習モデルは、「SentiMATE」と命名されています。
Sentimateは日本語に訳すと「感情」という意味になりますが、これはセンチメント分析という文章に含まれる相手の意見を評価する自然言語処理を指しています。「王手」を意味する「MATE」だけ大文字にしているところが、なかなか粋なネーミングです。
このAIは事前にセンチメント分析についてトレーニングを受けており、書かれている内容がポジティブ、ネガティブ、ニュートラルのいずれの意見を持っているか評価できます。
チェスの学習の際には、対象となるチェスの手がどの様に評価されているか解説コメントを分析し、最適な動きの評価を行うのです。
これによりAIは、チェスのルールさえ知らなかった状態から、ルールを把握し、キャスリングやフォークといった重要なテクニックまで獲得して、自力で戦略を立てられるレベルに達しました。
こうして学習を終えたAIは、実戦を試したところ、チャンピオンAIと比べるとだいぶ下手なプレイをしました。