「宇宙ひも」がすべてを解決
つまり、2つのブラックホール間の距離を適度に離しておき、安定させなければこのワームホールの問題は解決しないわけですが、その解決策として「宇宙ひも」を用いる方法が提唱されています。
宇宙ひもとは、時空の理論上の「欠陥」のことであり、水が氷になる際の亀裂にたとえられるものです。これは非常にエキゾチックな物質であり、幅は陽子の直径ほどしかないにもかかわらず、その長さは軽々とエベレストを超えてしまいます。
そして、宇宙ひもは極度に張り詰めた状態にあり、その状態から変化しようとしません。つまり、その宇宙ひもに2つのブラックホールを結びつけることができれば、両者が近づくことなく、離れた距離で固定されるということになります。
すなわち、宇宙ひもの両端が「綱引き」をおこなうような状態となり、その結果としてブラックホールが引き合おうとする力を相殺することができるのです。
しかし、たとえ宇宙ひもが「ブラックホール間の距離」といった1つの問題を解決したとしても、さらに根本的な問題である「ワームホール自身の不安定さ」を解決したことにはなりません。
そこで利用されるのが、もう1つの宇宙ひもです。その宇宙ひもでもワームホールをつなぎますが、ここではそれだけでなく、2つのブラックホールの間の通常の宇宙空間に宇宙ひもの輪を作り出します。
宇宙ひもは輪によって閉じられると、非常に激しく、小刻みに振動します。そしてこの振動が、「負の質量」を持つ物質と同じような効果を発揮することで、ワームホールの崩壊を防いでくれることが期待できるのです。
少し複雑な構造となっているこのワームホールですが、発表された研究の中では、その生成方法がステップ・バイ・ステップで示されています。
しかし、当然ながらこの方法が完璧であるかどうかは実際に作ってみないと分かりません。そして何よりも、現段階では観測すら困難とされている宇宙ひもを、どのようにして用意するのかといった方法論までは語られていません。
この研究が、夢のワームホール完成に近づくための貴重な1歩であったことは否定しようがありませんが、まだまだ「理論」と「現実」の間には非常に大きな隔たりが存在しているようです。