Point
■普通のマウスの眼球に特殊なナノ粒子溶液を注入して、近赤外線を視る能力を与えることに成功した
■このナノ粒子溶液は、低エネルギー赤外光を高エネルギー緑色光へ変換できる、希土類元素を含んでいる
■この実験で、マウスは本来視ることのできない近赤外線の光を追って簡単な迷路を攻略することができ、実験の影響による網膜への損傷なども見られなかった
特殊部隊が敵のアジトへ突入するとき、暗視ゴーグルを被って建物のブレーカーを落とす…というシーンを見たことがないでしょうか?
暗視ゴーグルは可視光域外の赤外線を捉えることで暗闇を見通す装置ですが、今後はあんな大掛かりなゴーグルを付けなくても、裸眼で赤外線が見えるようになるかもしれません。
マサチューセッツ大学医学部の研究者が、特殊なナノ粒子溶液をマウスの眼球へ注射することで、裸眼で近赤外線を見せることに成功したようです。
この研究は、アメリカ化学会(ACS)にて8月27日に発表されています。
https://www.acs.org/content/acs/en/pressroom/newsreleases/2019/august/nanoparticles-could-someday-give-humans-built-in-night-vision.html
意外と狭い可視光域
人を含め哺乳類の目は、400〜700ナノメートル(nm)の波長の光しか検出することができません。
音楽では、音の波長が2倍異なった場合、1オクターブ音階が変わります。つまり人間の視覚は、光の波長を1オクターブほどしか捉えることができないのです。ピアノが8オクターブの音階を表現していることを考えると、視覚に関して人はだいぶ狭い領域しか見えていないと言えます。
赤外線は絶対零度以外のすべての物質から放射される光です。そのため、可視光域を近赤外線の領域まで拡張することができれば、本来見えない夜空の星も、暗闇の中での視界の確保も可能になります。
現在、人が赤外線でものを見るには、赤外線ゴーグルやサーモグラフィーのような大型の装置が必要になるため、それを裸眼で実現できるというのは、大きな技術的革新だということができるでしょう。