Point
■地球から約31光年離れた位置で見つかった赤色矮星GJ3512は、太陽の12%程度の質量しかない非常に小さい恒星だ
■通常こうした質量の小さい星の回りには、木星型の巨大ガス惑星は誕生しないと考えられてきた
■しかし観測の結果、この星系からは木星に匹敵するサイズのガス惑星の存在が確認され、これまでの惑星形成理論に衝撃を与えている
現在もっとも宇宙でありふれた星である、赤色矮星と呼ばれる恒星。これは質量も明るさも直径も、太陽より小型の星です。
こうした星の回りでは小さな惑星しか形成できないというのが、これまでの天文学の常識でした。
ところが今回報告された赤色矮星は、質量が太陽の12%程度しかないというのに、木星型の巨大ガス惑星が存在していることが発見されたのです。
こうした状況はこれまでの惑星形成モデルでは説明がつきません。太陽系外の惑星は、現在4000個程度が発見されていますが、自ら光らない系外惑星については、まだまだ謎が多く、この発見も惑星形成について、新しい知見をもたらすものになると考えられます。
この研究は、スペインのカタルーニャ宇宙研究所のJuan Carlos Morales氏を筆頭としたチームより発表され、アメリカ科学振興協会の学術雑誌「Science」に9月27日付けで掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/365/6460/1441
惑星の形成
惑星は、新しく生まれた恒星の重力に捕らわれた濃いガスや塵の円盤がぶつかり合ってくっつき徐々に形成されていくと考えられています。
こうした円盤を原始惑星系円盤と呼び、物質が集積して惑星が作られる理論をコア集積モデルと呼んでいます。
木星のような巨大なガス惑星は、最初に岩や氷が固まって地球の10倍から15倍程度の重いコアが形成され、そこに水素やヘリウムのガスが集積して生まれると考えられています。
しかし、太陽より軽い恒星の場合、原始惑星系円盤は当然小さくなり、取り巻く物質も少なくなるため、巨大ガス惑星は形成できません。
こうした星系では、地球サイズから海王星サイズの小型の岩石惑星しか生まれないと考えられていたのです。
これまでも、地球から4光年から40光年ほどの範囲で、太陽の10%程度の質量しか持たない赤色矮星の星系が見つかっていますが、いずれも巨大ガス惑星は形成されていません。
ところが、今回科学者たちは、太陽の12%程度の質量しか持たない赤色矮星の周りから、少なくとも木星の半分近い質量を持った巨大ガス惑星GJ3512bを発見してしまったのです。
この惑星は、太陽系で言うと、水星の軌道に近い非常に恒星よりの軌道を公転しています。
太陽の質量は木星の1050倍にあたりますが、この星系では太陽に当たるGJ3512の質量は、ガス惑星GJ3512bの250倍程度しかありません。恒星と惑星のサイズ差がここまで小さいというのは、これまで報告がないものです。
こうした小さい恒星の周りに巨大ガス惑星が存在する理由は、コア集積モデルでは説明がつきません。このモデルで正確に説明のつかない惑星は、これが初めての発見です。
そこで、考えられるのはもう一つの惑星形成モデルである、重力不安定モデル(流動不安定性モデル)です。これは原始惑星系円盤が不安定な状態となった場合に、塵やガスの塊が重力崩壊して巨大なガス惑星を形成するもので、種になる核を必要としないモデルです。
もともと、コア集積モデルは巨大ガス惑星を形成するには時間がかかり過ぎるのではないか、という意見もありました。今回の発見は、このモデルとは異なる重力不安定モデルによる惑星の形成を支持する材料になるかもしれません。
木星型の巨大ガス惑星は、現在もまだ形成過程に多くの謎が残されています。
小さい太陽に大きな惑星という、これまでに無い変わった星系の存在が、この謎を解決する緒になっていくかも知れません。